『銀河鉄道の夜』宮沢賢治 (書評・近藤慎太郎)

みなさんの「初・宮沢賢治」はどの作品でしたか?

 

『どんぐりと山猫』?

セロ弾きのゴーシュ』?

雨ニモマケズ』?

 

どれも忘れがたい作品です。

 

私の場合は『注文の多い料理店』でした。

確か、小学校2〜3年の国語の教科書に載っていたと記憶しています。

私は決して本が好きな子供ではなかったのですが、なかったからこそか、

その目眩がするような面白さに度肝を抜かれました。

 

全編に漂う不気味さ、

どことなくトボけて個性的な表現、

違和感が少しずつ高じていき、

どんでん返しされるロジック、

意外な急展開、

そして最後のちょっとしたツイスト。

 

今読み返しても、エンターテイメントのお手本のような作品だなぁと感心します。

 

当時、急いで本屋さんに行って子供用の文庫を買ったのですが、実はその他の作品を読んで、子供心にも

「あれ、変だな。スッキリしない作品も多いぞ。」と思いました。

 

 

よく宮沢賢治の作品は、難解だと評されます。

確かにまるっきり意味も意図も分からない、オチもないという作品もあります。

注文の多い料理店』のように、最初から最後まで無駄なくキチンと完成している方が少数派かもしれません。

 

 

そして、名作の誉れ高い『銀河鉄道の夜』も、実は未完成の作品です。

 

銀河鉄道の夜 他十四篇 (岩波文庫 緑76-3)

銀河鉄道の夜 他十四篇 (岩波文庫 緑76-3)

 

銀河鉄道の夜

 

もうタイトルの響きからして素晴らしいですよね。

何べん繰り返しても素晴らしいまま。

イメージが奔流のように流れ込んできます。

 

有名な作品ではありますが、実際に読んだことがある方は意外と少ないのではないでしょうか?

 

銀河の祭りの夜、主人公のジョバンニと友人のカムパネルラは、ふと気がつくと銀河鉄道に乗っており、宇宙の様々な場所を旅します。

そして実はカムパネルラは…これ以上はネタバレになってしまうので、興味があればぜひご一読ください。

 

ところで描写はイマジネーション豊かで美しいといえばその通りなのですが、どうもわかりづらい。率直に言って読み進めるのが辛い場所もありました。

作者が37歳の若さで逝去したため、未定稿のまま遺されたことも影響しているのだと思います。

そして、その難解とも評される作者の特異性のヒントが賢治自身の言葉として解説に書かれています。

 

「これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらってきたのです。(中略)わけのわからないところもあるでしょうが、そんなところは、わたしくにもまた、わけがわからないのです。」

 

「えっ、そうなの!?」と思いますよね。

不思議な作家です。

たとえば夏目漱石三島由紀夫の果たした役割を、そのままではないにせよ、現代風に修正して代行する作家は出てきてもおかしくないと思いますが、宮沢賢治の代わりが出てくるとはちょっと思えない。

 

とにもかくにも独特な小宇宙を持った作品群を残してくれて、しかもそれらを現代でも気軽に読めることに感謝をして、少しずつ味わっていきたいと思います。

 

さて、本書の中で私が一番好きなセリフは、『からすの北斗七星』にあります。

カラスの大尉が山がらすとの明日の決戦に臨みます。許嫁もいるのですが、二度と会えないかもしれません。

その夜、カラスの大尉はマジエル星(北斗七星)を仰ぎ見ながら祈ります。

 

「ああ、マジエル様、あしたの戦でわたくしが勝つことがいいのか、山がらすが勝つのがいいのかそれはわたくしにはわかりません。ただあなたのお考えのとおりです。わたくしはわたくしにきまったように力いっぱいたたかいます。みんなみんなあなたのお考えのとおりです。」

 

私もそうありたいです。

『大河の一滴』五木寛之 その2 (書評・近藤慎太郎)

前回、本書には、日本人の通奏低音として流れるイメージを喚起する力があると書きました。

 

大河の一滴 (幻冬舎文庫)

大河の一滴 (幻冬舎文庫)

 

 

西洋的な善と悪の二元論を捨てて、もっと肩の力を抜く。

清濁併せ呑み、融通無碍に生きる。

あくせくせずに、大いなる自然の流れ、循環に身を任せる。

 

これは、自然界の万物に神が宿っていると考え、畏れ敬うという神道の考え方が根本にあるのかもしれません。

 

私自身も抗いがたい魅力を感じる一人ですが、こういう考え方、価値観には、固有の落とし穴もあると思います。

 

善と悪を峻別するとまではいかなくても、多くの選択肢の中から自分にとってベストのものを、自分の責任で選び取るということは、それなりに困難を伴う作業です。

 

その一方、「大いなる自然の流れ、循環に身を任せる」というのは、悪く言えば「成り行きに任せて責任を回避している」とも解釈できます。

 

辛い時にそういう考えを取り入れて、しばし気持ちをラクにするというのは人間には必須の知恵でしょうが、それが常態になってしまえば、単に困難から目を逸らして生きているだけになってしまいます。

 

また、本書で一ヶ所だけ気になる記述がありました。

その趣旨は以下の通りです。

 

「人間の体をつくっている細胞は、すべて老いていく。また、紫外線や汚染物質によって傷ついていく。そしてその周囲にそれをバックアップしようという善意のボランティアが出てくる。彼らが頑張りすぎて止まらなくなったものが癌である。

癌は悲鳴をあげながら暴走している哀れな細胞です。だれか止めてくれ、と叫びながら突っ走っている。癌はもともと善意の細胞なのだから、叩きつぶすとか放射線で焼き殺すとか闘病とか、そういう考えかたは基本的にどこかズレている。」

 

これもとてもありがちな、日本的な考え方だと思います。

万物に神が宿っているという考え方同様、自然現象を擬人化して、そこに意味を持たせてしまいがちなのかもしれません。

著者のマイルドな語り口に乗せられて気持ち良く読んでいると、特に違和感なくスッと内容を受け入れてしまう読者もたくさんいると思います。

しかし、いくらなんでもウェット過ぎるでしょう。 これも日本的な落とし穴の一つです。

 

 

私自身、日本的、神道的なものの考え方に強く共鳴する一人です。

しかし、私を含めて、それを最後まで貫き通す覚悟を持った人はそんなに多くないように思います。

大いなる流れに身を任せておきながら、いざがんができてしまったら、「こんなことは受け入れられない」とばかりに急に西洋的に白黒つけようとアタフタしてしまうのではないでしょうか。

 

ただしこれはどちらかの考え方を選択しなくてはいけない、ということではないと思います。

全体として日本的な価値観を取り入れながらも、要所要所で健康チェックなどをして、西洋的な価値観も保険として取り入れておけばいいのです。

いいとこ取りで全く構わない、と私は思います。

『大河の一滴』五木寛之 (書評・近藤慎太郎)

胃がん検診の話が一段落したので、食道がん検診の話に入る前に、気分を変えて何回か書評をしたいと思います。

ジャンルを問わずというわけにはいかないので、とりあえず『生と死をテーマにした本』という縛りを設けて、少しずつ紹介していきます。

 

さて、第1回目は1998年に出版されて大ベストセラーになった、五木寛之の『大河の一滴』です。

  

大河の一滴 (幻冬舎文庫)

大河の一滴 (幻冬舎文庫)

 

 

第1回目に選ぶほど強い感銘を受けたのかと言われると、必ずしもそうではありません。

ただ最近再読して感じたのは、出版からかれこれ20年近く経つのに、ここで著者が指摘した日本人を取り巻く諸問題が、驚くほど進歩のないままに存在し続けているという事です。

(あまつさえ複雑化して混迷度が増している)

そういった意味では、この作品は今なお新しいし、読む価値があります。

 

この作品は、書き下ろしの『人はみな大河の一滴』と、著者が雑誌やラジオで発表したエッセイをまとめたものです。

おそらく発表された時期はバラバラなのだろうと思うのですが、もともと著者の考え方が大らかで決めつけるような表現をしないので、ある程度の統一感を持って読み進める事ができます。

 

『人はみな大河の一滴』 の著者の論旨は以下の通りです。

 

「日本人は様々な閉塞感、将来に対する拭いきれない不安感に日々晒されており、自殺者の数は非常に高い値で推移している。

しかし、本来この世は地獄であって、人間の一生とは、本来苦しみと絶望の連続なのだ。

現代の日本人は、なにも期待しないで生きるという究極のマイナス思考から出発するべきなのだ。

なにも期待していないときこそ、思いがけず他人から注がれる優しさや、小さな思いやりが心に染み入るのだ。

からからにひび割れ、乾ききった大地だからこそ降りそそぐ一滴の雨水が甘露と感じられるのだ。暗黒のなかだからこそ、一点の遠い灯に心がふるえるのである。」

 

これだけであれば、テクニックや処世術の範疇に収まるかもしれませんが、著者はさらにこう考えます。

 

「自分をちっぽけな、頼りない存在と考え、もっとつつましく、目を伏せて生きるほうがいいのではないか。

海へと注ぐ大河の水の一滴が私たちの命だ。濁った水も、汚染された水も、すべての水を差別なく受け入れて海は広がる。

やがて海水は空の雲となり、ふたたび雨水となって地上に注ぐ。

高い嶺に登ることだけを夢見て、必死で駆けつづけた戦後の半世紀をふり返りながら、いま私たちはゆったりと海へくだり、また空へ還っていく人生を思い描くべきときにさしかかっているのではあるまいか。」

 

西洋的な善と悪の二元論を捨てて、もっと肩の力を抜く。

清濁併せ呑み、融通無碍に生きる。

あくせくせずに、大いなる自然の流れ、循環に身を任せる。

これは、宗教観を持っているような持っていないような日本人の奥底に、通奏低音として流れるイメージなのかもしれません。

著者の言葉が多くの人の共感を呼ぶのは、そういったイメージを喚起する力があるからなのでしょう。(つづく)

胃カメラの方が優れている2つの理由

1.バリウム検査の構造的欠陥

 

前回の結論は、状況証拠的には胃カメラの方が優れていると推測できるものの、結局、「どちらが胃がんの発見率が高いかは、はっきりわからない」という事でした。

 

しかし、そのようなあいまいな状況の中でも、私はやはり胃カメラの方が明らかに優れていると思います。

理由は2つあります。

 

1つは、「バリウム検査で病変があった場合、後日胃カメラが必要になる(二度手間になる)」ということです。

これはなんてことないように見えて、実はバリウム検査の致命的な弱点だと思います。

どういうことでしょうか?

 

前回のマンガの、

 

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この部分に注目してください。

 

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これを言い換えると、

「せっかくバリウム検査で引っ掛かったのに、38.5%の人は精密検査を受けず、

その結果、3262人(8478-5216)の胃がん患者が無治療のまま放置されている。」

ということになるのです。

 

これは実に由々しき問題です。

 

精密検査を受けなかった理由は色々あると思います。

「めんどくさかった」

「うっかりしていた」

は容易に想像できますし、

「怖くなった」

というのもあるでしょう。

 

いずれにしても、そのような理由が入り込む余地を与えてしまったのは、

 

バリウム検査」

   ↓

「精密検査(胃カメラ)」

 

という時間的、心理的な段階を踏まなくてはいけない構造にあります。

段階があれば、そこでこぼれ落ちる人が必ず出てきます。

ここがバリウム検査の致命的、宿命的な弱点の1つです。

 

胃カメラによる胃がん検診ではそれが起こりません。

最初から精密検査になっており、1回で確定診断に至ることが多いので、

受診者が思い悩んで道を踏み外す余地がほとんどないのです。

 

実はこれが胃カメラが相対的に優れているポイントです。

 

 

2.胃がん検診は食道がん検診を兼ねている

 

バリウム検査がラクだという誤解」でも少し触れましたが、

バリウム検査で食道を詳細に観察することは困難です。 

 

食道にバリウムが流れる数秒の間に、パシャパシャっと数枚レントゲンを撮る、というのが一般的です。これでは早期の食道がんを発見することはほとんど期待できません。

 

胃カメラの場合は違います。泡やカスがあれば洗い流し、送気して食道を膨らませてじっくり観察し、特殊な光を当ててがんを鮮明に浮かび上がらせることもできます。

 

「食道を詳細に観察することができる」

これが私が胃カメラが優れていると考えるもう1つの理由です。

 

「あくまで胃がん検診の話なんだから、違う臓器である食道を理由にするのはおかしいのでは?」

と思う人もいるかもしれません。

もっともな疑問ですが、これには理由があります。

 

食道は口と胃をつなぐ管状の臓器で、体の構造上、バリウム検査であっても胃カメラであっても、胃を観察する前に必ず食道を観察することになります。

 

つまり、胃がん検診は事実上食道がん検診も兼ねていることになります。

これもなんてことないように見えて、極めて重要なポイントです。

 

もし食道がんの頻度が極めて低ければ、胃がん検診は胃がんのことだけ考えて優劣を論じればいいでしょう。

しかし、2012年の食道がん罹患率は、特に男性で高く、

10万人あたり16.9人で、6番目に多いがんになっています。

 

確かに胃がん検診は胃がんを発見するために始められたものであり、今でも建前上はそうなっていると思います。

しかし頻度からいっても、胃がん検診において、食道がんのことを無視して考えることはできなくなっています。

そのため、食道の詳細な観察ができる胃カメラの方が、バリウム検査よりも優れていると言わざるをいないのです。

 

胃がん検診の優位性を決めるにあたって、当の胃がんよりも、付随的な目的であったはずの食道がんの診断能力に大きな差があり、その点を重視して考える必要があるという、ある種の関係性の逆転があるのです。

 

3.食道がんについて明らかにしなければ、胃がん検診を決められない

 

本来であれば、胃がん検診におけるバリウム検査と胃カメラの違いについて検討したのちに、「どのリスク因子を持った方にはどの検査をどれくらいの間隔で受けるのがいいか」という一番実践的な内容を解説する予定でした。

 

しかし、上記の理由から、その前に食道がんについて詳細に解説する必要があるのです。

 

(文・イラスト 近藤慎太郎)

 

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バリウム検査と胃カメラ、実はどっちがいいかわからない

1.胃がんの発見率はどちらが高いのか?

 

さて、2回にわたってバリウム検査と胃カメラの長所と短所を解説いたしました。

ざっくりまとめると、

 

1.バリウム検査は決してラクではない(体位変換が大変、誤嚥のリスク、バリウムが固まって便秘になる…)。医療被曝する。病変があった場合は胃カメラが必要(二度手間になる)。

2.胃カメラは嘔吐反射が苦しい。出血、穿孔のリスクがある。

3.胃カメラは病変があった場合、組織検査をして確定診断も可能(←すみません、これ前回書き忘れました!)。

4.胃カメラには選択肢が3つ(オーソドックスな口からの胃カメラ、麻酔の注射を使う胃カメラ、鼻からの胃カメラ)ある。ただし胃がんのリスクが高い人は鼻からのカメラはおすすめしない。

 

 

 

では、肝心の胃がんの発見率はどちらが高いのでしょうか?

 

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たとえば、慢性胃炎が強い人が「自分は胃がんのリスクが高い。検診はバリウム検査ではなく、胃カメラを選択しよう。」と考えるのは極めて自然です。

そういう人が胃カメラを受けたグループの中に多ければ、そもそもそのグループは胃がんのリスクが高い人たちで構成されているということになります。

その結果、胃がんが見つかる可能性がバリウム検査のグループよりも、2倍高くなっているかもしれないのです。

 

では「早期」胃がんの発見率はどうでしょうか?

平成25年度消化器がん検診全国集計によると、バリウム検査で発見したがんのうち74.8%が早期がんでした。

一方、2014年の人間ドック全国集計成績報告によれば、発見された胃がんのうち81.4%が早期がんでした。

後者は人間ドックの集計なのでバリウム検査だけではなく胃カメラも含まれており、胃カメラの方が早期がんを見つけやすいから、割合が高くなっていると考えるのが普通でしょう。

 

ただし厳密にはこれもわかりません。

 

もしかすると多くのお金を払って人間ドックを受ける人たちの方が、より健康に対する意識が高く、「きちんと毎年検査を受けているから早期がんの割合が高かった」だけなのかもしれないのです。

 

2つのグループを比べる時、グループの条件に「偏り(バイアス)」がないかどうか考えることはとても重要です。

 

 

2.じゃあ、どうすればいいのか?

 

バリウム検査と胃カメラ、どちらが有用か本気で白黒はっきりさせようとしたら、何万人~何十万人の患者をランダムにバリウム検査と胃カメラに割り振って、結果を両者で比較するという、めまいがするような大掛かりな臨床試験が必要です。

(ここでいう「ランダム」というのは、たとえば全員にサイコロを振ってもらって、奇数はバリウム、偶数は胃カメラにするなど、割り振りをまったくの偶然に任せる、という意味です)

 

これを現代の日本でやることは至難の業です。まず無理でしょう。

 

状況証拠的には胃カメラの方が優れていると推測できるものの、結局、 「どちらが胃がんの発見率が高いかは、はっきりわからない」というしかないと思います。

 

 

3.バリウム検査の構造的欠陥

 

しかし、そのようなあいまいな状況の中でも、私はやはり胃カメラの方が明らかに優れていると思います。

理由は2つあります。(つづく)

 

(文・イラスト 近藤慎太郎)

 

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胃カメラをラクに受けるコツ

1.胃カメラが苦しいという、誤解…?

 

さてバリウム検査の次は、胃カメラの長所と短所を解説します。

 

ここで、皆さんの中には「胃カメラか…。」と暗い気持ちになっている方も多いと思います。

胃カメラをするとオエオエえずいて大変。よだれと涙と鼻水でグチャグチャになる。」という方もいらっしゃるでしょう。

残念ながら、胃カメラが苦しいというのは誤解とは言えません。

胃カメラは、腹部の超音波検査(エコー)のようにベッドに横になっていればおしまい、という検査とは違います。場合によっては非常に苦しくなってしまうことがありえるのです。

 

なぜ胃カメラが苦しいのかというと、人間には「嘔吐反射」と言う生理的な反射があるからです。

誰でもノドの奥に指を入れるとオエッとなるはずです。これが嘔吐反射です。

指の代わりに胃カメラを入れても同様のことが起こります。

これは人間には誰しも備わった体の機能なので、胃カメラを入れるとオエオエするという方がむしろ自然なことなのです。

 

ただし嘔吐反射があまりにも強いと、胃と食道のつなぎ目が裂けて出血することがあります。

また非常にまれですが、胃カメラでのどや食道の壁を傷つけて穴が開いてしまうことがあります(穿孔といいます)。

嘔吐反射や緊張が強ければ強いほど、これらの偶発症が起こる頻度が高まってしまうので、やはりできるだけ胃カメララクに受けるための工夫が必要になってくるのです。

 

 

2.胃カメララクに受けるコツ

 

胃カメララクに受けるためには、いくつかのコツがあります。

 

まず、検査の前には必ずノドの局所麻酔をします。

これにはドロッとした液体を含むやり方と、スプレーを散布するやり方があり、施設によっては併用する場合もあります。

この麻酔は刺激が強くて少し不快なのですが、これをしっかりやればやるほど嘔吐反射が抑えられ、胃カメラ自体はラクになります。

 

次に、検査中は深呼吸が大事です。一般的に「鼻から吸って口から吐く呼吸で」といいますが、みなさんそれぞれがやりやすい方法で結構です。とにかくゆっくり大きな深呼吸を続けます。

 

よくベロを動かして胃カメラが口の中に入ってくるのをブロックしようとする方もいますが、無駄な抵抗はやめましょう。ベロは下あごにピタッとくっつけて、ノドの奥をポカーンと大きくあけましょう。

ツバは飲み込むと気管に入ってむせ込むことがあるので、できるだけ飲まないで口の外に垂れ流します。

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それでも苦しい!という方ももちろんいらっしゃいます。

その場合は2つの選択肢があります。

 

 

3.鼻から胃カメラ??

 

1つは、麻酔の注射を使う胃カメラです。

 

麻酔で意識をボーっとさせて嘔吐反射を抑え込む、という方法です。

 

使う麻酔にはいくつかの種類があり、一種類だけ使うのか、もしくはいくつか併用するのかで麻酔の深度が変わっていきます。

もちろん使えば使うほど麻酔がしっかり効いて検査自体はラクに受けられますが、その分麻酔の副作用が出るリスクも上がります。そして検査後に意識がハッキリするまで病院の中で休む時間も長くなります。

また、当日は車の運転を控えた方がいいので、病院までバスやタクシーなどの公共交通機関を利用する必要がでてきます。

 

 

もう1つの選択肢は鼻から入れる胃カメラです。

 

実は胃カメラを鼻から入れると、単に解剖学的な理由で嘔吐反射が出にくくなるのです。

たとえば筆者の場合は、口からの胃カメラではかなり嘔吐反射が出る一方、鼻からだとほぼゼロでした。

「1時間でもできる」と思ったほどです。

 

ただしこれには個人差があり、中には「思ったほどラクじゃなかった」という方もいます。

また、鼻の中は複雑な構造になっているので、胃カメラがぶつかることによって痛みを感じたり、鼻血が出たりすることがあります。

 

これは私見ですが、がっちりとした体格の男性だと鼻からの胃カメラの恩恵が大きい(嘔吐反射が出にくい)ですが、鼻の小さな女性は鼻血のリスクもあり、口からの胃カメラの方が向いているように思います。

 

またその他の注意点として、鼻からの胃カメラは口からの胃カメラに比べて挿入する部分が細くなっているので、その分どうしても機能が犠牲になってしまっています。

画質がやや劣りますし、胃の中のアワなどを吸引してキレイにするのに時間がかかってしまうというマイナス面があります。

 

         

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4.自分なりの胃カメラをカスタマイズする

 

以上のように、胃カメラの選択肢には、

 

  1. オーソドックスな口からの胃カメラ
  2. 麻酔の注射を使う胃カメラ
  3. 鼻からの胃カメラ

 

の3種類があります。

 

ただし施設によっては一部の選択肢がない場合もありますので、検査を受ける場合には事前の確認が必要です。

 

どの選択肢にも一長一短があるので、これが正解というものはありません。

そして胃カメラは一度受ければそれでおしまいという検査ではないので(検査間隔については改めて詳しく解説します)、まずは一番興味がある選択肢を選び、場合によっては次回に他の選択肢を試すことによって、徐々に自分に一番合っているやり方を見つける、カスタマイズする、という心構えがいいと思います。

 

ただし大事な留意点として、慢性胃炎が強いなど胃がんのリスクが高い方は、機能の点から鼻からの胃カメラはお勧めしません。1か2を選んだ方が安全だと思います。

 

(文・イラスト 近藤慎太郎)

 

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