胃がんで便潜血は陽性にならないのか?

1.胃がん便潜血は陽性にならないのか?

 

便潜血検査は、誤解が蔓延しているという意味でも非常に重要なポイントなので、ここ数回にわたってかなり詳細に検討してきました。

  

  

 

 

  

結論だけ言えば、「有用だけど十分とは言えない」ということでした。

 

では大腸がんやポリープの早期発見のためにはどうすればいいのでしょうか?

やはり便ではなく、大腸自体を直接調べる画像検査の方が確実です。

 

胃がん検診のために胃液の検査をする人はいないと思います。

それとまったく同じことだと言えます。

 

ところで、少し話が脱線しますが、便潜血検査で胃がんのチェックはできないのでしょうか?

便に血が混ざっていないかどうかを調べるのが便潜血検査であるならば、胃がんが食事内容とこすれて出血する場合も検査が陽性になってもいいように思います。

 

しかし、結論から言うと、胃がんのチェックは原則的に便潜血検査ではできないのです。

 

なぜかというと、血液(この場合、ヒトヘモグロビン)は、胃など消化管の上流で出た場合、胃酸や膵液など様々な消化酵素に長時間さらされて、便に混じるまでに性質が変わってしまいます(変性)。このため、便潜血検査で引っ掛かりにくくなってしまうのです。

 

一方、大腸など消化管の下流で出血した場合、ごく一部はやはり変性するかもしれませんが、大部分はヒトヘモグロビンの形態をとどめているため、検出可能となるのです。

 

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「なんだ~一緒にチェックできればいいのに…。」

と思うかもしれません。

 

しかし、「大腸のチェックしかできない」ということは、必ずしも悪いことではないのです。

たとえば、もし検査が陽性になった場合に、

「胃か大腸かわからないから、両方カメラで検査しましょう!」と言われるのもイマイチですよね。

「胃は半年前にチェックしたのに…」という場合でも、心配になって「じゃあしょうがないから念のためもう一度受けよう」と思ってしまうかもしれません。

 

それよりは、便潜血検査=大腸」という特異性(1対1対応すること)があった方が、結局のところは便利なのです。

 

 

2.便潜血以外の検査方法は?

 

さて、本論に戻ります。

現状では大腸の主な画像検査として以下の4つの検査方法が挙げられます。

 

1.大腸内視鏡検査(以下、大腸カメラ)

2.注腸検査

3.CTコロノグラフィー

4.カプセル内視鏡

 

現在、健診の項目として認められているのは便潜血検査だけですので、便潜血陽性や下血などの症状がない限り、残念ながらこれらの画像検査は人間ドックなど保険外診療で受けていただく必要があります(健診と人間ドックの項目の違いについてはあらためて詳しく解説します)。

 

各検査の特徴を説明する前に、まず共通する大事なポイントから説明します。(つづく)

 

(文・イラスト 近藤慎太郎)

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

 

『40歳の胃がん、35歳の大腸がん』の講演会のレポートです

少し前の話になりますが、1月26日の木曜日にスルガ銀行ミッドタウン支店にてセミナーを開催させていただきました。

 

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以前にたまプラーザ支店でもセミナーを開催しおり、幸い好評だったため、今回の運びとなりました。

ありがたいことです…。

  

  

ちなみにスルガ銀行では各支店で積極的に様々なセミナーを開催しています。

 

 

どんな内容なのかと言うと、私の様に健康についての話ももちろんありますし、美容関係、 資産運用や家計のやりくりのコツなどから、写真の撮り方、生命の起源の話、はては可愛いテルテル坊主の作り方…などなど、非常に多岐に富んでいて興味深いです。

 

予約さえすれば同行と関係がなくても誰でも参加可能ですので、お時間があれば覗いてみる価値はあると思います。

 

さて、私のセミナーのレポートがアップされていました!

 

『40歳の胃がん、35歳の大腸がん』 | イベントレポート | イベント | d-labo

 

専門のライターの方が、非常に詳細に内容を説明してくださっています。

一生懸命聴いてくれたんだろうなと、とても感謝しています。

ただ、なにぶんとても詳細なので、「これ読んだらもうほとんどの内容が分かってしまって、今後参加する必要がなくなっちゃうんじゃないかな…」とちょっと心配になりました(笑)。

 

ま、それはさておき、今回も好評だったようで、ホッとしました。

ブログ、書籍、セミナー…様々なアプローチがありますが、予防医学の普及のためには、とにかくコツコツ地道に重ねていくことが一番大事だと肝に命じております。

今後もよろしくお願いいたします〜!

 

(以下、アンケートより抜粋します。みなさまご参加いただき、本当にありがとうございました!)


・ ガンと直面する方法をその解決方法について知ることができました。やはりガン検診の重要性と自分の健康は自分で守るということを再認識しました。ありがとうございました。(30代男性

 

・40才になり気になるテーマだったので今回のセミナーに参加しました。普段あまり聞けない貴重なお話しばかりで大変参考になりました。30代女性

 

・医療系のセミナーは今回が初めてだったがとても有意義だった。内視鏡検査は上・下ともに1回受けたことがあるが、今回のセミナーを元に、また機会があれば受講してみたいと思います。(40代女性)

 

・本日も誠にありがとうございました。今回で2回目なのですが、前回以上に色々と考えさせられ参加して良かったです。単にガンのことのみならず人生についても多くの事を考えるきっかけとなりました。(50代男性)

 

・大変わかりやすく、早期発見を重要として、生活していかなければならないと思いました。 "健康費"大切なのですね。本日もありがとうございました。

 

・何よりよく解りました。検診と人間ドックの考え方の違いについても知ることができ大変良い機会となりました。とても良い知識を得られたのもこの講座のお蔭です。ありがとうございました。30代女性


 

(文 近藤慎太郎)

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

 

読売新聞に『がんで助かる人、助からない人』の広告が出ています!

5月9日の読売新聞の朝刊に、拙著『がんで助かる人、助からない人』の広告を出しました!

 

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がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

 

  

太字で結構見やすくなってて嬉しいな~。

でも3つ右に、似たようなタイトルの本がかぶってる…。

 

当たり前かもしれませんが、新聞広告って初めて出しました。

これだけの広告を出すのも結構お金がかかるんですよね(汗)。

絶対回収できないと思う…。

 

まあ、予防医療の普及のためにはお金は二の次なので、しょうがないんですけど。

これで目を留めてくれる人が増えるといいなぁ~!

 

あと当ブログの管理をしてくれているスタッフから、素敵なプレゼントをいただきました!

 

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これ、なんだと思いますか?

 

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実は、チロルチョコなんです!

こんなことできるんですね~。

 

仕事に疲れたら、これをじっと見つめてから一つ口に入れ、目をつむってモグモグ味わい、初心を思い出してまた頑張っています!

 

(文 近藤慎太郎)

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

 

便潜血検査についてのよくある誤解

さて、ここで便潜血検査にまつわる誤解をまとめておきます。

 

ピロリ菌と同様に便潜血検査についても、患者と医師の両方に多くの深刻な誤解が蔓延しています。

そしてその誤解は、胃がん検診における誤解よりも深刻な事態を生じる可能性が高いのです。

 

1.「陰性だから問題がない」という誤解

前述したように、大腸がんやポリープなどの病変があるのに陰性と出てしまい、治療すべき病変を見逃すケースは多々あります。

 

2.「陽性になったのでもう一度便潜血検査をして確かめる」という誤解

これも実に多い誤解です。医師が勧める場合すらあります。

便潜血検査は通常2回やります。これは、病変があっても陰性になってしまうケースをできる限り減らすための工夫です。当然、2回中1回でも陽性になれば「便潜血陽性」と診断されます。つまり、陽性になった後にもう一度確認して陰性になったとしても、それは結局陽性と判断されるべきケースなのです。一度陽性が出たという事実は、その後何回陰性になったとしても消えるわけではありません。

 

3.「痔があるから陽性になっただけ」という誤解

こう思いたい心情はよく理解できます。便潜血陽性で私の外来に来られる方の3人に1人は、第一声がコレです。

実際に痔のせいで陽性になることもありますが、もちろん痔と病変の両方があっても全くおかしくありません。自分は痔があるから陽性になっているだけなんだと早合点して精密検査を受けないでいると、実は大腸がんもあって、放置している間にどんどん進行してしまったということもありえるのです。

 

便潜血検査についての誤解が多いのは、診断能力が決して高くなく、結果の解釈が難しいからでしょう。

もちろん、やらないよりはやった方がずっといいです。それは間違いありません。しかし、その限界についてもよく知っておかなくてはいけません。特に、がんの予防の上で大切なポリープの診断能力が低い点に十分な留意が必要です。

これは私見ですが、現状の様々ながん検診の中で、大腸がん検診が一番大きな落とし穴になっていると思います。

 

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さらには、せっかく便潜血検査で引っ掛かったのに、精密検査を受けないままでいるケースがとても多いです。

以前、バリウム検査でこぼれ落ちる人が多いと解説しましたが、それと同様のことがここでも起きているのです。

 

 

この点については、機会をあらためて詳しく解説いたします。

  

(文・イラスト 近藤慎太郎)

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

 

ラジオ日本『Hello!I, Radio』に出演しました!!!

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4月10日月曜日に、ラジオ日本の情報番組『Hello!I, Radio』に出演させていただきました!

パーソナリティは栗原美季さん。少し話しただけでも引き出しの多さが分かる素敵な女性でした。(^^)

しかし10分間の生放送。あっという間でしたが、いやあ緊張しました…。

 

ああいう場になると、「何かしゃべらなくてはいけない」と思って、まったくいらないことまでペラペラしゃべり出すのが私の悪いクセなのですが(笑)、さすがそこはプロのパーソナリティ、キチッと私の手綱を操って、素晴らしい内容にまとめてくださいました!

 

基本的には拙著『がんで助かる人、助からない人』の内容紹介だったのですが、

放送終了後にAmazonの在庫がゼロになり(!)、ラジオというメディアが持つ影響力を強く感じました。

 

ラジオというのは当然、音声だけが伝わるメディアであって、本を読んでない人に内容がうまく伝えられたのかというと、正直に言ってまったく自信がないのですが、もしかすると、「あ~言ってることよく分かんないから、とにかく買ってみるか!」という方も結構いたのではないかと思っています(笑)。

 

また、受け手側に100%正確に伝えるのではなく、「想像する余地を持ってもらう」ということも意外と重要だと常々思っているので、音声だけしか伝わらないということは、一見デメリットのように思えても、メリットになる場合も多々あるのではないでしょうか。

 

自営業や運転中の方など、ラジオだけ聞きながら仕事をしているという方もたくさんいると思うので、「ラジオだけが持つ力」というのを再確認した素晴らしい経験となりました!

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左:パーソナリティの栗原美季さん

 AM1422kHz ラジオ日本 - Hello!I,Radio 4月10日(月)130回目より)

 

(文 近藤慎太郎)

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

 

便潜血検査でも受け続ければ、正確性が増していく

1.前回のおさらい

 

大腸がんの予防のためには、内視鏡で治療できる早期の段階、つまり、まだ大腸がんになっていないポリープの段階で病気を見つけるのがベストです。

 

ではポリープがあったら便潜血検査は陽性になるのでしょうか?

これも報告によってばらつきがありますが、便潜血陽性になったのは、ポリープ全体の 11-18%と報告されています。(注1)

残念ながら極めて低い数字です。

 

 

2.とはいえ、まったく役に立たないわけではない

 

次に、下の図を見てください。これは私の集計したデータで、第55回日本人間ドック学会にて発表したものです。

少し分かりにくいかもしれないので、頑張って付いて来てください。

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便潜血検査をおこない、陽性になった47人のうち22人(約47%)、陰性になった383人のうち95人(約25%)にポリープがありました。

 

つまり、陽性の方が、陰性よりもポリープがある人の割合が多いのは確かなのですが、ポリープの約81%(95/117)は陰性であり、検査に引っかかっていないのです。

 

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次に、小さいポリープ(5㎜以下)と 大きいポリープ(6㎜以上) に分けてみましょう。

小さいポリープがあった77人のうち、便潜血陽性になったのは9人(11.7%)で、

大きいポリープがあった40人のうち、便潜血陽性になったのは13人(32.5%)でした。

 

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これは当たり前のことのように思えますが、きわめて大切なことです。

 

なぜかというと、「がんが実際にあるのに検査で陰性になってしまったとしても、継続的に検査を受けることによって、病変が大きくなるとともに、検査が陽性になる可能性が年々高まるから」です。

この作用によって、内視鏡や外科的治療によって完治する時期を逃すリスクを、ある程度下げられるはずです。

 

前回のブログでも強調しましたが、やはり便潜血検査は頻繁に受けて初めて意味があるのです。

  

 

ただし、それだけやっていれば安心、とはやはり言えないでしょう。

 

特に、大腸ポリープガイドラインでも切除が推奨されている6㎜以上の大きいポリープも、約67.5%便潜血陰性でした。

この数字に満足できる、という方は少ないと思います。

 

ではどうすればいいのでしょうか?

便潜血以外の大腸がん検診については、改めて詳しく解説していきます。

 

(文・イラスト 近藤慎太郎)

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

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(注1)Hundt S, et al. Comparative evaluation of immunochemical fecal occult blood tests for colorectal adenoma detection. Ann Intern Med 2009; 150: 162-9