日経ビジネスオンラインでアクセスランキング1位を獲得しました!

前回のブログでもご報告しましたが、9月20日水曜日から、日経ビジネスオンラインで連載を始めました!

 

 

題して『医療格差は人生格差』!!!

 

第1回目は受動喫煙について、

 

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9月27日の第2回目は肺がん検診について解説しています。

 

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しかも私のマンガ付きです。

私のグダグダマンガが全国的なメディアに載っています。

嬉しさよりも「座りの悪さ」の方が強いですが、編集部に「やめろ」と言われるまでは、空気読まないで突っ走ります!(笑)

 

さて、とっても嬉しいことに、第1回目の記事が9月20日のアクセスランキングで1位を獲得しました!!!

 

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これはいわば瞬間最大風速的なもので、1日トータルとしては1位ではない(5位)のですが、それでも十分です。

しかもこの原稿を書いている9月25日現在の週間ランキングでも、週間ランキングで11位に入っています。

日経ビジネスオンラインによれば、「月曜日から金曜日まで毎日10~20本の記事をお届けする」とのことなので、連載1回目としてはでき過ぎとしかいいようがありません。

もちろん、それに見合った良質な記事を書いていく責任も怖いくらい感じています。

 

今後とも精進しますので、どうぞ引き続きよろしくお願いいたします!!!

 

(文・近藤慎太郎) 

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

 

『みなさまへの重要なお知らせ!!!』

当ブログを読んでいただいているみなさま、いつもありがとうございます!

 

当ブログは複数のコンテンツで成り立っています。

 

①『がんで助かる人、助からない人』

私の初めての著作の内容を少しずつアップしています。

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

 

 

この本は全6章で成り立っていて、現在までに1‐4章までの内容を当ブログで読むことができます。

 

②『生と死を照らす100冊』

「生と死」をテーマにした書評を行っています。これも少しずつ進んでいて、現在までに13冊紹介できました。

 

③『低ハードル・ダイエット』

前々回から始まった、私の現在進行形のダイエット記録です。

食べたいものは食べて、最低限の運動+α(まだ見ぬ未知のTips)だけでなんとか痩せるということを目的にしています。

B級グルメ情報も兼ねています。

 

そんな日々のほそぼそとした営みを神様が不憫に思ったのかどうかわかりませんが、なんと9月20日から、天下の『日経ビジネスオンライン』で週刊連載が始まりました!!!

題して『医療格差は人生格差』!

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医療とみなさんの間にはとても大きなギャップがあって、それは年々広がり続けています。

医療者の中での常識や、当然の事実として認識されていることが、驚くほどみなさんと共有できていないのです。

それはなぜかというと、医療は進歩する一方なのに、その情報をみなさんに的確に伝えるための手段がほとんど進歩していないからです。

 

この問題意識が、私にとって本を書いたりブログを続けたりする原動力となっています。

 

電子製品やグルメ情報ぐらいであれば格差があっても害は少ないですが、なにぶん医療はみなさんの人生にダイレクトに影響していきます。

「情報がなかったばっかりに、気がつけば手遅れだった」という事態は避けなければいけません。

 

そのために、この連載ではみなさんの健康管理において致命的になりうる盲点や誤解を、自作のマンガを使ってできるだけわかりやすく解説していきます。

そしてその結果、みなさんが心身のメンテナンスを適切に実践し、仕事でもプライベートでも人生の質をさらに高めることができるようになること。

それが私の心からの願いです。

 

この連載は週刊連載なので、いつまで続くはまったくわかりませんが、続く限りはかなりの時間を配分することが予想されます。

そこで、当ブログの④本目の柱として、連載と連動しながら内容の補足的な解説などを行っていきたいと思っています。

 

ブログと連載、両方お楽しみいただければ幸いです。

引き続き、よろしくお願いいたします!!!

 

(文・近藤慎太郎)

近藤慎太郎の低ハードル・ダイエット 第2回

食べたいものは食べて、最低限の運動+α(まだ見ぬ未知のTips)だけでなんとか痩せられないかという都合のいい理由で始まったのが『低ハードル・ダイエット』です。

誘惑の多い飽食ニッポンにおいて、筆者自身の体をモニターしながら、どうすれば必要最低限の努力だけで肥満を回避していけるのかという難題に回答したいと考えています。

 

現状では、週2回のスポーツジム(筋トレ1セット+有酸素運動20‐30分)と、週1回2キロ程度のジョギングを鼻歌まじりでしているだけです。

今後、おおよそ月に1回のペースで体脂肪などのチェックをし、方針の再評価をする予定です。

 

さて、よく肥満という表現を使いますが、医学的な定義はご存知でしょうか?

 

医学的には、「肥満」は「BMI25以上」のことです。

BMIというあまり聞きなれない言葉が出てきましたので、ここでその概念について説明します。

BMIというのはBody Mass Indexの頭文字をとったもので、身長と体重のバランスを見る指標になります。体重を、身長(メートル換算)の2乗で割ることによって算出します。

たとえば身長170㎝(1.7m)、65㎏の方の場合、

BMI=65/1.7二乗=22.5

となります。

22が理想といわれており、大きくなればなるほど肥満、その逆がやせ、という事になります。

BMI25以上の肥満というのは、170㎝の方だと、72.25キロ以上という事になります。

みなさんもぜひ自分のBMIを測ってみてください。

 

それを踏まえたうえで、日本人の肥満の割合はどう推移しているのでしょうか?

下のグラフは、厚生労働省が発表している統計です。

 

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女性では肥満の割合はほとんど変化していませんが、男性ではすべての年代において肥満が一貫して増加していることが分かります。

 

肥満は様々な病気の原因になることが分かっています。なんとしても、この現状を改善する必要があるのです。

 

 

さて、そんな問題提起をした後ではなはだ気後れしますが、この1週間で私が食べたものを発表します。

一覧にすると、自分がいかに脂肪分の多い炭水化物が好きなのかということが分かります。

 

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立川『かにチャーハンの店』(写真 左列・上)

旨いうえにボリュームもかなりある。昼時になると、血走った眼をしたサラリーマンが次々と店内に吸い込まれていく。

カニの出汁が効いた味噌汁もグッド。

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新橋『ビーフン東(あずま)』(写真 左列・下)

ホームページによると、

「当店の歴史は、初代が石川県で日本料理店を営んでいたことに端を発します。明治中頃に台湾に渡り、日本海軍指定の料亭として営業、第二次大戦中にはマニラにも支店を出しておりました。」

とのこと。

卓上にあるにんにく醤油をかけながらいただく。麺も具材も一つひとつ納得のおいしさだが、あくまで昔ながらのビーフンであり、目から鱗が落ちるようなものではないと思う。しかし店のたどった歴史やたたずまい、そして常連さんに愛されながらいまだ新橋で営業を続けているという事実にロマンとノスタルジーを感じる。ちまきも有名なようなので再訪したい。

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(文・近藤慎太郎)

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

 

近藤慎太郎の低ハードル・ダイエット 第1回

診療を行う上で、肥満をどうコントロールするかというのは非常に重要な問題です。

肥満は、高血圧、糖尿病、脂質異常症などを起こして、脳卒中心筋梗塞の引き金になったり、がんの発症リスクを上げたりするからです。

 

外来などで肥満の相談を受けるたびに、

「痩せなきゃダメですよ」

とか

「入ってくるカロリー(食事)と出て行くカロリー(運動)の収支のバランスですよ」

とか

「まずはじめに野菜を食べるといいですよ」

とか説明しています。

 

間違ったことを言っているわけではありません。

しかし実はそれはどこかの教科書に書かれていたことであって、自分がそれを実感として持っているのかと言われると、必ずしもそうではありませんでした。

 

医者として生きていく上で、適切な食事と運動による健康管理の知識は欠かせません。

そうであるならば、自分の体を使ってダイエットをきちんと実践し、健康管理をするうえで何がどういいんだということを、確信を持って言えるようにならなければいけないと思い立ちました。

 

幸い(?)長年の多忙による運動不足と不摂生のせいで、お腹の回りは自分の人生史上、最高にタプタプしています。

もともとやせ型で、服を着るとそうは見えないのですが、健康診断のたびに「典型的な隠れ肥満ですね」と言われています。

食事と運動による効果をモニターするためには、これ以上ないぐらい理想的な状態です。

 

ただしダイエットを始めるにあたって、いくつかのルールを決めました。

 

①無理な食事制限はしない。

リンゴだけ食べるとか、炭水化物は食べないとか、そういうことは一切しません。恥ずかしながらラーメンやカレーなどが大好きなので、好きなものはきちんと食べつつも、それを補完する食事などで無理のないダイエットを目指します。

 

②無理な運動はしない。

急に頑張りすぎると長続きしませんし、体にも良くありません。多忙な方でもこれぐらいならなんとかできるという、「ハードルの低い運動」を心がけます。

 

③高価なサプリや健康食品などは使わない。

無理なく一生でも続けられるダイエットを目指すので、特定の商品に頼ったり、持続的に出費がかさんだりするようなことは一切しません。

ただし、コーヒーと紅茶、烏龍茶のどれがいいかなど、一般的なスーパーなどで買える商品はいずれ試す予定です。その場合も、原則的にごく一般的な商品を選んで、「痩せるお茶」など特定の効果を謳ったものは使用しません。

 

また、色々なことをいっぺんに試すと、減量できた場合にどれが一番効果があったのかが分からなくなってしまいます。

まず数ヶ月は、「運動」をテーマにします。

現在、週に1〜2回近所にあるスポーツクラブに行って、体感、四肢の筋トレをしています。

重さは「10回ギリギリできるぐらいを2〜3セット」と言われていますが、1セットしかやってません。(笑)

あまり時間を掛けたくないのと、あくまでも「ハードルの低い運動」を大事なテーマにしていますので…。

あとは有酸素運動を30分やっていますが、まったく自分を追い込んでいません。30分でだいたい250キロカロリー消費する程度です。

また「今日はちょっと疲れているな…」という時は20分にするなど、かなり大胆に変更しています。

あとは週1回、7歳の子どもと一緒に近所の公園を走っています。これは子どもの体力づくりがメインの目的なので、ゆっくりと2キロ前後ぐらいしか走っていません。オマケ程度です。

 

さて、現状のデータを示します。

 

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身長174cmで体重66.3キロなので決して重すぎではないと思いますが、体脂肪率が21.3なので結構あります。やせ型なのに脂肪が付いているという状態です。

これがどう変化していくか、また経過を報告します。

 

また、無理なダイエットはしないということを証明するために、食べたものを示します。

B級グルメ情報も兼ねていますので、どうぞご参照ください。(笑)

 

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大宮『煮干丸』(写真 上段・左)

煮干が香る濃厚なスープ。麺はストレートでカタメがデフォルトだが、スープがしっかりしているのでこれぐらいがちょうどいい。バッサバッサ食べる感触が心地よい。

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新橋『岡むら屋』(写真 下段・右)

いわば牛丼の亜種。濃いめのいわゆる肉どうふにタマゴ、大根が入っている。大根は「どんだけ煮込んでんだ?」というぐらいにトロットロのシミッシミで、柔らかすぎて自重に耐えられず折れている。卓上には七味とカラシが置いてあり、たっぷり10秒は悩んだ末に両方投入した。ガッツリ食べたい時にオススメ。

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(文・近藤慎太郎)

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

 

『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』 渡辺俊美 (書評・近藤慎太郎)

作者はバンド『TOKYO No.1 SOUL SET』のギタリストです。

また、同じ福島県出身である山口隆サンボマスター)たちと『猪苗代湖ズ』を結成し、2011年の紅白歌合戦にも出場しています。ご覧になった方も多いのではないでしょうか。

 

紅白の少し前、作者は妻と離婚したそうです。

そして中学生の一人息子の親権は作者が得て、父子の二人ぐらしが始まったのです。

 

そんな事情も影響したのかもしれませんが、息子さんは高校受験に失敗してしまいます。

しかしなんとか踏ん張って翌年再受験し、今度は無事合格しました。

 

そこで作者は頑張っている息子さんを何とか応援したいと考え、二人で相談した結果、「高校の3年間は毎日お父さんがお弁当を作る」という約束を交わしたのです。

 

その3年間を記録したものが、本書『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』です。

461個の弁当は、親父と息子の男の約束。

461個の弁当は、親父と息子の男の約束。

 

 

おそらく作者にも色々な思いがあったのだと思います。

母と離ればなれにさせてしまったこと。

寂しい思いをさせていること。

母親役もしなくてはいけないこと。

 

その思いがこれだけ途方もない約束(私見です)へと結実したのでしょう。

 

お子さんがいる男性のみなさんは、来る日も来る日も毎朝お弁当を作り続ける自信がありますか?

少なくとも、私はまったくありません。絶対そんな約束はしないと思います(笑)。

 

作者はもともと料理も好きだったようです。凝り性で、上達するまで同じものを何度も作り続けたりもしていたようです。

しかし、たとえ素地があったとしても相当大変だったはずです。

なにせ作者はミュージシャンで仕事は不規則で不在がち。

それでも、二日酔いの日も、早朝に帰宅した日も、休まず作り続けたそうです。

そうして作り続けたお弁当の写真がたくさん載っているのですが、手抜きをしていないことはもちろん(冷凍食品は一切使っていない)、どんどん腕前が上達していることが見て取れます。

本当に脱帽です。

 

好きなものをたくさん入れて、お弁当を開けた瞬間、息子さんを喜ばせたい。

どんな時でも箸が進むよう、美味しそうに見せたい。

そして体にいいものを食べて健康に育ってほしい。

 

そんな思いが全編からヒシヒシと伝わってきます。

 

ブロッコリーは塩ゆでしているとき、鍋にお酢を少し垂らすと、すごくきれいな緑色になって上がってきます。」43ページ

 

「色が散らばってしまったと感じたときは、真ん中にミニトマトを一つ置いてみると、なぜか全体がまとまって見えます」44ページ

 

「息子が大好きなしょうが焼き。初春はまだ寒いので、体が温まるよう、いつもより多めのしょうがを入れた。」59ページ。

 

「高知から送られてきた初がつおは、さすがに生のまま弁当に入れられないので、にんにく醤油で一晩漬けて竜田揚げにしました。」71ページ

 

実に愛に溢れた文章です。

挙げていたらキリがないほど全体にちりばめられています。

 

きっとお弁当は毎日はっきりと目にすることができて、心も体も満たすことができる、とても分かりやすい愛情表現であったんだろうと思います。

自分のことを気づかってくれている、愛してくれているということを毎日毎日確認できる。

たとえ会えない日があったとしても、お弁当が父子のコミュニケーションを介在し続けていたのでしょう。

 

それがどれだけきちんと息子さんに伝わっているかは、本書の末尾にある息子さんからのコメントで見て取れます(ここではあえて書きませんが…)。

高校を卒業したばかりの息子に、これだけ素直で親愛の情に満ちた感謝を受けられるような父親が世の中にどれほどいるのか、はなはだ疑問です。

 

こんな一文もありました。

息子さんが高校の単位の取得のために遠出をするときに、

 

「食べたらすぐ捨てられるよう、竹の皮の箱にしましたが、持って帰ってきてくれました。」39ページ

 

素晴らしい父子関係ですね。

やっぱり私もお弁当を作った方がいいのかな。(笑)

 

(文・近藤慎太郎)

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

 

『旅をする木』 星野道夫 (書評・近藤慎太郎)

旅をする木 (文春文庫)

旅をする木 (文春文庫)

 

 

著者の星野道夫は、26歳で単身アラスカに渡りました。

以後18年間そこで暮らし、人の手が入っていない過酷な自然と、そこに暮らす人々の営みを、端正な文章と雄弁な写真で描写しました。

そして1996年に、ロシアでキャンプ中にクマに襲われて亡くなっています。43歳でした。

 

ある時は白夜の中カリブーの大群を追い、

ある時は船でザトウクジラに遭遇し、

ある時はフェアバンクスの古本屋で昔の写真を眺めながら空想に浸り、

ある時は腕の良いブッシュ・パイロットの葬儀に参列し、

ある時は孤島に自然のままのトーテムポールを探しに行く。

 

本書を読んで伝わってくるのは、大いなる自然と隣り合わせで生きるということの危うさです。

大きな都市で安全に暮らしていると感覚が鈍磨してしまいますが、本書の舞台アラスカでは人間も自然の中で決して例外的な存在ではなく、時にかんたんに死へと呑み込まれていきます。

友人のパイロットたちの死もそうであるし、なにより作者自身も予期せぬ死を迎えているのです(本書の出版の後ではありますが)。

 

それがこちらに予備知識としてあるからか、読み進めながら、隣り合わせの死を予兆のように常に感じてしまいますが、なぜか陰惨なイメージは感じられません。

それはおそらく著者自身が、人間も自然のシステムの中にある無力な1ピースに過ぎないと皮膚感覚で感じており、それをむしろ肯定的に受け入れているからでないかと思います。

 

それが垣間見える、象徴的な挿話があります。

本書のタイトルにもなる、アラスカに伝わる物語です。

 

鳥についばまれたトウヒの木の種子が、アラスカの川沿いの森に根づき、大木へと成長する。

長い年月をかけてユーコン川がゆっくりと森を侵食し、トウヒの木も川へ流れ落ちていく。

海流が流木を遠いツンドラ地帯へとたどり着かせる。

木のないツンドラの世界で流木は一つのランドマークとなり、一匹のキツネが匂いをつけて自分のテリトリーとする。

そしてエスキモーは流木を薪として利用し、ストーブにくべる。

トウヒは燃え尽きるが、大気の中に混じって新たな旅が始まっていく…。

 

諦念と安息を感じさせるこの物語が著者の中に脈々と息づいているからこそ、何を見ても、何を経験しても、著者の目がキラキラと輝いていることが想像できるのです。

 

そして、巻末にある池澤夏樹氏の解説がすべてを語っています。

 

「幸福になるというのは人生の目的のはずなのに、実は幸福がどういうものか知らない人は多い。(中略)

実例をもって示す本、つまり幸福そのものを伝える本は少ない。(中略)

旅をする木』で星野が書いたのは、結局のところ、ゆく先々で一つの風景の中に立って、あるいは誰かに会って、いかによい時間、満ち足りた時間を過ごしたかという報告である。

実際のはなし、この本にはそれ以外のことは書いていない。」p237

 

もちろん、作者自身はひけらかすような書き方は一切していません。ただ事実として、作者が経験して書き記している物事が、日々の営みに追われる私たちにとって、めくるめく夢のような経験にしか思えないのです。

 

「今となると、ぼくには旅をする気が星野と重なって見える。

彼という木は春の雪解けの洪水で根を洗われて倒れたが、その幹は川から海へくだり、遠く流れて氷雪の海岸に漂着した。言ってみればぼくたちは、星野の写真にマーキングすることで広い世界の中で自分の位置を確定して安心するキツネである。

彼の体験と幸福感を燃やして暖を取るエスキモーである。それがこの本の本当の意味だろう。」p241

 

本当にそんな感じです。まるで神話のようです。

ちょっと立ち止まりたいとき、なんとなく日々がしっくりしないときに手に取っていただきたい1冊です。

 

(文・近藤慎太郎)

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

 

『殺人犯はそこにいる』 清水潔 (書評・近藤慎太郎)

昨年、『文庫X』と称して正式タイトルを伏せられた文庫が書店で平積みになっていたのを覚えている方もいると思います。

そもそもは、とある書店員さんがその本の内容に強い感銘を受け、お客さんに手に取ってもらうためにはどうすればいいだろうかと考えたことが発端でした。

そこで思いついたのが「タイトルを伏せて中身を教えない」という、いわば逆転の発想だったのです。

これが功を奏してジワジワと売れ始め、そこから火がついてその手法のまま全国の書店に広がっていきました。

 

もうキャンペーンも終わっているようなのでネタバレしてもいいと思いますが、その中身がこれです。『殺人犯はそこにいる』

 

殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)

殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)

 

 

みなさん、足利事件が冤罪だったいうニュースを覚えていると思います。

幼女を三人殺したとされ死刑判決を受け、およそ17年間服役していた菅谷利和さんが、実際には犯人ではなかったという衝撃的な事件です。

決定的な証拠とされていたDNA判定が実は正確性の低いものであり、その後の再鑑定で別人のものである可能性が非常に高いことが判明しました。また菅谷さんの自供も、刑事や検察に暴力的に誘導されたものだったのです。

菅谷さん自身は判決後よりずっと無罪を主張していて、それを支援する人たちもいたのですが、事態は一向に進展していませんでした。

 

そんな中、DNA鑑定の誤謬を暴き、自分の足で関係者の証言を取り直し、冤罪であることを証明したのが本書の著者なのです。

 

なにせ1990年の事件です。関係者の行方も分からず、手掛かりも雲散霧消しています。しかも当時の捜査関係者は、保身のため非協力的な人ばかり。そんな不利な状況の中、著者と数人のスタッフだけで捜査結果をひっくり返し、真実を証明して見せたその行動力に脱帽です。

 

しかも著者が足利事件に関わるようになった、その動機が凄いです。

幼女が三人殺されたとされるその地域では、一定期間に実は四人の幼女が殺されていて、その他に一人が今も行方不明になっているのです。

別々の事件とされているそれらを、著者は同一犯によるものと確信しました。しかしそのうち二人の事件は菅谷さんが収監された後に起こっている。

…ということは菅谷さんは真犯人ではありえない。

真犯人をあばき出すためには、まず菅谷さんが真犯人ではないことを証明する必要があったので、第1段階として菅谷さんの冤罪を証明して見せたのです。

この人、本当に凄いと思います。

 

そして菅谷さんの冤罪を暴いた後には、当然真犯人を見つける必要があります。著者は真犯人に迫れるのでしょうか…?

 

これ以上はどうぞ本書を読んで確認してください。

 

この著者の行動力に感服するとともに、私が本書を読んで強く感じたのは、冤罪に代表されるように、「世の中にはあってはいけないことが普通に起きているんだな」ということでした。

 

なんらかのミスによって、一人の人間の人生をメチャクチャに破壊することがありうるという不条理性。

多くの人間がそれに加担しておきながら、だれも責任を取らないという異常性。

それがこのように現実の世界で起きていて、もしかしたら冤罪なのに今も服役している人がいるのかもしれません…。

その恐ろしさに暗澹たる気持ちになります。

 

冤罪事件がその最たるものでしょうが、おそらくこれはどの職種であってもありうることです。

命を扱う、もっともあってはいけない場所の一つである病院であっても、時々目を覆いたくなる医療ミスが起きているのは新聞等で報道されているとおりです。

 

私たちはだれしも、望むと望まざるとにかかわらず、他人の人生に関与しています。それは極端に言えば、少しずつであっても生死に関与している、ということです。

冤罪や医療ミスのように因果関係がはっきりしているものもあれば、何気なく相手に言った一言や取った行動、それらが実は相手の中に深く根を下ろし、その人にマイナスの影響を与え続けるということだってありえます(特に親子間でその傾向は顕著でしょう)。

それを100%避けるということは難しいことです。しかし、人と関わるとはそういうことなのだと、自戒も込めて強く感じています。

 

(文・近藤慎太郎)

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」