1.バリウム検査の構造的欠陥
前回の結論は、状況証拠的には胃カメラの方が優れていると推測できるものの、結局、「どちらが胃がんの発見率が高いかは、はっきりわからない」という事でした。
しかし、そのようなあいまいな状況の中でも、私はやはり胃カメラの方が明らかに優れていると思います。
理由は2つあります。
1つは、「バリウム検査で病変があった場合、後日胃カメラが必要になる(二度手間になる)」ということです。
これはなんてことないように見えて、実はバリウム検査の致命的な弱点だと思います。
どういうことでしょうか?
前回のマンガの、
この部分に注目してください。
これを言い換えると、
「せっかくバリウム検査で引っ掛かったのに、38.5%の人は精密検査を受けず、
その結果、3262人(8478-5216)の胃がん患者が無治療のまま放置されている。」
ということになるのです。
これは実に由々しき問題です。
精密検査を受けなかった理由は色々あると思います。
「めんどくさかった」
「うっかりしていた」
は容易に想像できますし、
「怖くなった」
というのもあるでしょう。
いずれにしても、そのような理由が入り込む余地を与えてしまったのは、
「バリウム検査」
↓
「精密検査(胃カメラ)」
という時間的、心理的な段階を踏まなくてはいけない構造にあります。
段階があれば、そこでこぼれ落ちる人が必ず出てきます。
ここがバリウム検査の致命的、宿命的な弱点の1つです。
最初から精密検査になっており、1回で確定診断に至ることが多いので、
受診者が思い悩んで道を踏み外す余地がほとんどないのです。
実はこれが胃カメラが相対的に優れているポイントです。
2.胃がん検診は食道がん検診を兼ねている
バリウム検査で食道を詳細に観察することは困難です。
食道にバリウムが流れる数秒の間に、パシャパシャっと数枚レントゲンを撮る、というのが一般的です。これでは早期の食道がんを発見することはほとんど期待できません。
胃カメラの場合は違います。泡やカスがあれば洗い流し、送気して食道を膨らませてじっくり観察し、特殊な光を当ててがんを鮮明に浮かび上がらせることもできます。
「食道を詳細に観察することができる」
これが私が胃カメラが優れていると考えるもう1つの理由です。
「あくまで胃がん検診の話なんだから、違う臓器である食道を理由にするのはおかしいのでは?」
と思う人もいるかもしれません。
もっともな疑問ですが、これには理由があります。
食道は口と胃をつなぐ管状の臓器で、体の構造上、バリウム検査であっても胃カメラであっても、胃を観察する前に必ず食道を観察することになります。
つまり、胃がん検診は事実上食道がん検診も兼ねていることになります。
これもなんてことないように見えて、極めて重要なポイントです。
もし食道がんの頻度が極めて低ければ、胃がん検診は胃がんのことだけ考えて優劣を論じればいいでしょう。
10万人あたり16.9人で、6番目に多いがんになっています。
確かに胃がん検診は胃がんを発見するために始められたものであり、今でも建前上はそうなっていると思います。
しかし頻度からいっても、胃がん検診において、食道がんのことを無視して考えることはできなくなっています。
そのため、食道の詳細な観察ができる胃カメラの方が、バリウム検査よりも優れていると言わざるをいないのです。
胃がん検診の優位性を決めるにあたって、当の胃がんよりも、付随的な目的であったはずの食道がんの診断能力に大きな差があり、その点を重視して考える必要があるという、ある種の関係性の逆転があるのです。
3.食道がんについて明らかにしなければ、胃がん検診を決められない
本来であれば、胃がん検診におけるバリウム検査と胃カメラの違いについて検討したのちに、「どのリスク因子を持った方にはどの検査をどれくらいの間隔で受けるのがいいか」という一番実践的な内容を解説する予定でした。
しかし、上記の理由から、その前に食道がんについて詳細に解説する必要があるのです。
(文・イラスト 近藤慎太郎)
胃がん、大腸がんもふくめて、10種類のがんの解説をいたしました!胃カメラや大腸カメラの受け方についてもさらに詳しく解説しているので、ぜひご一読ください!