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がんもどき理論の非合理性

1. 近藤誠氏 の『がんもどき理論』

 

さて、ここであらかじめ言及しておかなくてはいけないことが一つあります。

 

『患者よ、がんと闘うな』の著者である近藤誠氏は、「がんを早期発見する必要性はない」と主張しています。そして残念なことにその主張に惑わされている方もかなりいるようなので、ここでその主張に対する反証を挙げておきたいと思います。

 

そもそも「がんを早期発見する必要性はない」と主張する理由は以下の通りです。

 

1 がんには「本物のがん」と「がんもどき」がある。

2 「本物のがん」は早期発見以前に他の臓器に転移しているから、元の病気を治療しても治らない。

3 「がんもどき」はいくら大きくなっても転移しないから放置しても大丈夫。

4 「本物のがん」は治療しても治らず、「がんもどき」は治療しなくてもいいから、結局すべての

がんは治療する必要がない。

 

というロジックです。ただし注釈、私見、例外がいくつかつきます。

 

*「本物のがん」と「がんもどき」は外見上の区別がつかない

*「がんもどき」はリンパ節転移をすることがあるが、それは転移として認めない。

*「がんもどき」が途中から「本物のがん」になることもある。

 

などです。

基本的にはすべて仮説から成り立っていて、このロジックを支える客観的な証拠はどこにもありません。

特に「*」注釈の部分がひどいです。都合が良いことこの上ないし、がんもどきが本物のがんと区別がつかず、本物のがんになることもあるのであれば、それは本物のがんの一種でしょう。がんもどき論争の過程で、矛盾を糊塗するために注釈でツギハギしつづけた、いびつな構造の理論だと思います。

 

つっこみどころはたくさんあるのですが、ここでは一番大事な点だけ反証しておきます。それは“2”の「本物のがん」は早期発見以前に他の臓器に遠隔転移しているから治らない、という部分です。この点だけは看過できません。がんもどき理論の非合理性を、胃がんを例にとって説明します。

 

 

2. 10年生存率で見えてくるもの

 

胃がん5年生存率 (注1)は、発見されたステージ別に、

I期 97.2%

II期 65.7%

III期 47.1%

IV期 7.2%

と発表されています。(「全国がん(成人病)センター協議会」ホームページより)

そもそもステージが早いほど生存率が高いこと自体が「早く見つけるほどがんが治っている」ことを示しているのですが、それは今は措いておきます。

 

さて、2016年1月に初めて10年生存率 (注2)が発表されました。それによると、

I期 95.1%

II期 62.7%

III期 38.9%

IV期 7.5%

です。

5年生存率とほぼ同様の傾向と言えるでしょう。

 

がんもどき理論からすると、この結果はおかしくないでしょうか?なぜなら「本物のがんは治らない」はずです。

つまり、I期で見つかろうが、II期で見つかろうが、III期で見つかろうが、「本物のがんは治らない」のだから、時間が経つにつれIV期の生存率に近づかなくてはいけないのです。

 

例えば10年生存率が、

I期 60%

II期 40%

III期 20%

IV期 5%

といったようにです。

しかし、実際にはそうはなっていません。

確かにIII期は進行癌なので低下していますが、I期とII期はほとんど変化していません。これは「治っているから」と解釈するのが常識的です。

 

この事実をがんもどき理論の立場でムリヤリ解釈しようとすれば、「I期で見つかった95%、II期の60%ががんもどきだったのだ。本物のがんはI期ではほとんど見つからないのだ。」と言うしかないでしょう(後付けにもほどがありますが)。

つまり、I期でみつかる95%はがんもどきなので、進行癌にはならないということです。

 

しかし、実はそれに対する反証もちゃんとあるのです。

早期胃がんを発見されたにもかかわらず、諸事情で治療を受けなかった方を経過観察したところ、そのうちの64.3%が進行がんに進展した、と報告されています。(注3)

やはり早期胃がんも放っておけば大半が進行癌になってしまうのです。I期の95%ががんもどきなのだとは、とても言えません。

 

 

3. がんもどき理論は「後出しジャンケン

 

以上のように反証をあげようと思えばあげられるのですが、ややまわりくどい印象を持たれたかもしれません。確かにがんもどき理論は反証しにくい理論です。それはなぜかというと、がんもどき理論はよく例えられるように、「後出しジャンケン」だからです。

 

これはどういうことでしょうか?

がんもどき理論では実際の診療がどうなるかを例にとって説明します。

 

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ここからは2つのパターンが考えられます。

 

パターンA

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パターンB

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いかがでしょうか?いずれのパターンであっても、とても納得がいくような説明ではないと思います。まさに「後出しジャンケン」そのもので、結果だけを見て後から自分に都合のいいように解釈しているだけなのです。

 

事前にどれががんもどきでどれが本物のがんか分かるというのであれば検討に値しますが、それすらできないのです。何もせずに様子を見るしかなく、前述したように早期の胃癌であっても、大半の患者さんは進行がんになっていくのです。

がんもどき理論は誰にとっても何の役にも立たちません。実用性ゼロの空理空論です。

 

 

4. 悪魔の不在証明

 

よく近藤誠氏は、「がんもどき理論が間違いだと言うのなら、それを証明せよ」と言いますが、それは全くのあべこべで、よりシンプルでダイレクトに説明可能な従来の医学界の考え方が間違っていて、ツギハギだらけのいびつながんもどき理論が正しいと言うのであれば、近藤誠氏の方こそそれを証明しなくてはいけないのです。地動説を唱えたコペルニクスや、地球が丸い事を証明したマゼランのように、新しい説で通説をひっくり返そうというのであれば、誰にでも分かる形でがんもどき理論を証明する必要があるのです。

 

(文・イラスト 近藤慎太郎)

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

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 注1

2004-2007年診断症例

 注2

1999-2002年初回入院治療症例

 注3

Tsukuma H, Oshima A, Narahara H, Morii T. Natural history of early gastric cancer: a non-concurrent, long term, follow up study.  Gut. 2000 Nov;47(5):618-21.