誤解だらけのピロリ菌

1.ピロリ菌についての医師と患者の誤解

 

ピロリ菌については、とても深刻な誤解が世の中に蔓延しています。

そして残念ながら、医師自身が誤解の普及に一役買っているケースすらあるのです。

それでは、ピロリ菌についてのよくある誤解を見ていきましょう。

 

  1. 慢性胃炎は治療の対象ではない」という誤解

胃潰瘍胃がんができた方のピロリ除菌は以前より保険適応ですが、

慢性胃炎の除菌が保険適応になったのは2013年2月と比較的最近のことです。

つまりそれまでは慢性胃炎は原則的に治療の対象ではありませんでした。

 

そして過去にそのように説明を受けているため、「自分は慢性胃炎に過ぎないので治療は必要ない」と思い込んでいる方がまだいらっしゃいます。

また、その意識が完全に抜けきらない医師も時々います。

 

  1. 慢性胃炎が軽度だから治療しなくて大丈夫」という誤解

この誤解も多いです。

前回解説した通り、慢性胃炎が軽度の人、つまり「ピロリ菌感染→慢性胃炎胃がんのリスク増大」という流れが進み切っていない人こそ除菌のメリットが一番大きいと考えられています。

 

  1. 「ピロリ菌を除菌したからもう大丈夫」という誤解

これも前回解説した通りです。流れのスイッチがすでに押されてしまっているので、発がんのリスクをゼロにはできません。

 

  1. 「ピロリ菌検査をしたら陰性だったから大丈夫」という誤解

実はこれが一番大きな問題になりうる誤解です。

「ピロリ菌が胃がんの原因なんだから、陰性ならいいのでは?」と思われる方も多いと思います。

しかし「ピロリ菌陰性」と「ピロリ菌に感染したことがない」は決してイコールではありません。

 

たとえば、過去に風邪などで抗生物質を内服した時に、「本人も知らないうちにピロリ菌が除菌できていた」というケースがありえます。

この場合も結果的に「3」と同様の状態になりますので、胃がんのリスクはまだ残っていることになります。

 

そしてさらには、実はピロリ菌陰性なのに、胃がんのリスクが最高レベルに高いというケースがあるのです。これはとても重大なパラドックスなので、詳しく解説いたします。

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2.医師の説明は全て正しいという誤解

 

この誤解については以前も触れました。

blog.medicalxandy.com

 

健康診断や人間ドックの場合は、全身の様々な臓器のチェックをしたのちに、みなさんに結果を説明するのはあくまで一人の医師です。そもそもの専門は消化器だったり、呼吸器だったり、腎臓だったりと様々であって、みなさんが健診で引っかかった項目の専門家とは限りません。もしもその項目が医師の専門外の分野であれば、細かい部分で間違った説明をしてしまうことはありえることです。

 

医師は専門外の分野の異常については軽く捉えてしまう傾向がありますし、患者さんも軽く捉えたいという潜在的な願望がありますので、あたかも阿吽の呼吸のように、話を流してしまうことがあるのです。

特に慢性胃炎やピロリ菌といった、今すぐに問題が顕在化するわけじゃないことに関しては、この傾向が顕著なのだと思います。

 

健診で引っかかった項目がある方は、くれぐれも結果を安易に考えることなく、専門の科を受診してご自身のリスクや病気について理解を深めるようお願いいたします。

 

 

3.一次予防の次は…二次予防です

 

さて、胃がんの一次予防を完璧にこなしたとします。

タバコはやめました。野菜と果物をきちんと食べています。塩分は極力減らしています。ピロリ菌の除菌もしました。

ではこれで終了なのかというと、残念ながらやはりそうではないのです。

 

もちろん一次予防の重要性に疑いの余地はありませんが、発がんのリスクをゼロにすることはできません。リスクの程度に応じてでかまいませんが、万全を期すのであればどうしても二次予防、つまり画像検査による「がん検診」が必要になってくるのです。

 

(文・イラスト 近藤慎太郎)