意外と怖い逆流性食道炎

1.逆流性食道炎って?

 

最近各種メディアで取り上げられることも多いので、逆流性食道炎という病名を聞いたことがある方も多いかと思います。

逆流性食道炎は、胃から分泌される胃液が食道に逆流することによって生じます。

 

胃液は胃の中に入ってきた食事内容と混ざり合い、消化を助けながら十二指腸の方に流れていきます。本来、胃液は胃より奥の臓器の方向にしか流れないはずのですが、様々な理由で食道の方に逆流することによって、主に下部食道(胃に近い部分)に炎症を起こしてしまうのです。

 

症状としては、酸っぱい胃液が上がってくる感じ、胸やけ、胸痛、ゲップ、食欲低下などが挙げられます。

また逆流した胃液が気管の方に入ることにより、慢性的に咳が出たり、喘息の様な症状が出たりするケースもかなりあります。咳や喘息などの症状があると呼吸器(肺や気管支)に問題があると考えがちですが、原因のはっきりしない呼吸器症状が続く場合は、逆流性食道炎の可能性を考慮する必要があります。

 

逆流性食道炎が引き起こす症状は多岐にわたり、時に重症になりえるので、QOL(生活の質)を著しく落としてしまうことがあります。

 

 

2.逆流性食道炎から発がんする!

 

そして逆流性食道炎が何より問題なのは、以前に解説したとおり、食道がんのリスクになるということです。(注1)

 

 

慢性的に炎症が続いている場所では発がんのリスクが上昇してしまいます。これは、ピロリ菌による胃炎から胃がんが生じることとまったく同じです。

 

欧米では、逆流性食道炎から発症する食道がんが増えていることが深刻な社会問題になっています。

逆流性食道炎が強く関与していると考えられているのは、食道がんの中でも「腺がん」というタイプであり、実際に欧米では食道がんの50%以上が「腺がん」です。(注2)

 

では日本の場合はどうかというと、食道がんの大部分(90.8%)が「扁平上皮がん」という別のタイプで占められており、「腺がん」は食道がんの3.9%にすぎません。(注3)

この結果から、現状では日本の食道がんにおける逆流性食道炎の関与はまだ少ないと考えられています。しかしまだ安心はできません。食生活の欧米化に伴って、近年日本でも逆流性食道炎の方が非常に増えています。今後、食道がんのうち腺がんが増えてこないかどうか、注意深く見守っていく必要があるのです。

 

 

3.逆流性食道炎を予防するためには

 

さて、逆流性食道炎になる原因はいくつかあります。

暴飲暴食すれば胃の内圧が高まって内容物が逆流してきますし、過度の肥満があると内臓脂肪によって胃が圧迫されてやはり内容物が逆流します。

 

本来胃と食道のつなぎ目は、下部食道括約筋という筋肉で閉まるようになっていますが、その圧力を下げて胃液を逆流しやすくさせてしまう要素がいくつかあります。たとえば脂肪の多い食事チョコレートコーヒーなどカフェインを含むもの、タバコは圧力を下げるといわれています。もちろん、一切食べてはいけないという事ではありませんが、これを食べると胸やけが起こりやすいなど心当たりがある場合は、量を控えた方がいいでしょう。

 

また、特に注意していただきたいのは夜遅い時間の食事です。食事をしてからすぐ横になって寝てしまうと、逆流を防ぐ方向に働く重力の影響がなくなって、胃の内容物が食道に逆流しやすくなってしまうのです。

胃液の分泌は1日のうちでも就寝中の夜間に最も活発になりますので、夜遅い食事がそれをさらに増強させてしまうのです。少なくとも食後3時間はあけてから就寝するようにしてください。

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(文・イラスト 近藤慎太郎)

 

(注1)Lagergren J, et al. Symptomatic gastroesophageal reflux as a risk factor for esophageal adenocarcinoma. N Engl J Med. 1999;340:825-31.

(注2)Trivers KF, et al. Trends in esophageal cancer incidence by histology, United States, 1998-2003. Int J Cancer. 2008;123:1422-8.

(注3)Comprehensive Registry of Esophageal Cancer in Japan,2006