『限りなく完璧に近い人々』 マイケル・ブース (書評・近藤慎太郎)

この本,非常に面白かったです。

 

限りなく完璧に近い人々 なぜ北欧の暮らしは世界一幸せなのか?

限りなく完璧に近い人々 なぜ北欧の暮らしは世界一幸せなのか?

 

 

著者はイギリス人のトラベルジャーナリスト,フードジャーナリストです。

家族で日本を旅行しながら、著者独自の感性で全国各地の美味しいものを食べ歩いた記録『英国一家、日本を食べる』が日本でもベストセラーになったので、ご存知の方も多いと思います。

 

英国一家、日本を食べる 上 (角川文庫)

英国一家、日本を食べる 上 (角川文庫)

 

 

今回、著者がターゲットとして選んだ国は、『北欧』。

本書ではデンマークノルウェーフィンランドスウェーデンアイスランドを加えた5カ国を対象としています。

いずれも、様々な社会学的な調査で高い評価を得ている国ばかりです。

充実した社会保障制度、公共サービス、男女平等、教育、幸福度・・・などなどで上位を独占する事もあります。

少子高齢化を迎える日本も、北欧に習って様々な政策を進めるべきなのではないかと言われています。

 

しかし、これらの国々は本当にそんなに素晴らしいのか?

国民は心から満足しているのか?

重い税制についてはどう考えているのか?

そこに自己欺瞞は無いのか?

 

著者が各国へ赴き、時には住み、様々な人にインタビューしながら、その知性とイギリス人らしいひねくれたユーモアで、ぶった斬っています。

 

乱暴な言い方をすると、北欧というのは「似たような国の集まり」というイメージがあると思います。

しかし本書を読むと、確かに非常に強固な共通点があるのは間違いありませんが、やはりそれぞれに明確な個性があることが分かります。

宗主国だったスウェーデン、それをライバル視するデンマーク、きわめて深刻な経済危機を起したアイスランド、莫大な量の石油を掘り当てて潤沢な資産を持つノルウェー、マッチョ思想が根強いフィンランド・・・。

更には、お互いの国に対して、歴史的な背景に根差した非常に複雑な愛憎、偏見、嫉妬などが渦巻いていることも分かります。

 

その一方で、共通点をごくごく簡単に総括してしまえば、北欧を北欧たらしめているのは、

バイキング時代にまでさかのぼる平等主義と同調圧力

自慢や野心を恥ずべきこととし、自分のおかれた立場に感謝、満足するという国民性、

そして自分以外の大多数の人々も同じような価値観を持っているという同質性、

といえるでしょう。

そしてそれがウラハラにも、現在の北欧の様々な問題点の原因ともなっています。

つまり、行き過ぎた同調圧力、社会的な閉塞感が自殺者や向精神薬の処方数の多さにつながり、

アメリカを始めとする新自由主義の世界的潮流が社会的な格差を増大させ、

移民問題が同質性を損ない始めているのです。

北欧はほころび始めていると本書は警鐘を鳴らします。

それらを乗り越え、今後も北欧は北欧らしくあり続けることができるのでしょうか?

 

北欧の行く末は日本にとっても他人事ではありません。

本書を読んでつくづく思ったのは、もちろん歴史的な経緯など相違点も沢山ありますが、それを差し引いてもやっぱり無視できないほどの、北欧の人々と日本人の共通点の多さでした。

ほころび始めているという点でも同様でしょう。

お互いがお互いから学ぶべき点は多々あると感じました。

 

(文・近藤慎太郎)

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