1.胃がんの発見率はどちらが高いのか?
さて、2回にわたってバリウム検査と胃カメラの長所と短所を解説いたしました。
ざっくりまとめると、
1.バリウム検査は決してラクではない(体位変換が大変、誤嚥のリスク、バリウムが固まって便秘になる…)。医療被曝する。病変があった場合は胃カメラが必要(二度手間になる)。
2.胃カメラは嘔吐反射が苦しい。出血、穿孔のリスクがある。
3.胃カメラは病変があった場合、組織検査をして確定診断も可能(←すみません、これ前回書き忘れました!)。
4.胃カメラには選択肢が3つ(オーソドックスな口からの胃カメラ、麻酔の注射を使う胃カメラ、鼻からの胃カメラ)ある。ただし胃がんのリスクが高い人は鼻からのカメラはおすすめしない。
では、肝心の胃がんの発見率はどちらが高いのでしょうか?
たとえば、慢性胃炎が強い人が「自分は胃がんのリスクが高い。検診はバリウム検査ではなく、胃カメラを選択しよう。」と考えるのは極めて自然です。
そういう人が胃カメラを受けたグループの中に多ければ、そもそもそのグループは胃がんのリスクが高い人たちで構成されているということになります。
その結果、胃がんが見つかる可能性がバリウム検査のグループよりも、2倍高くなっているかもしれないのです。
では「早期」胃がんの発見率はどうでしょうか?
平成25年度消化器がん検診全国集計によると、バリウム検査で発見したがんのうち74.8%が早期がんでした。
一方、2014年の人間ドック全国集計成績報告によれば、発見された胃がんのうち81.4%が早期がんでした。
後者は人間ドックの集計なのでバリウム検査だけではなく胃カメラも含まれており、胃カメラの方が早期がんを見つけやすいから、割合が高くなっていると考えるのが普通でしょう。
ただし厳密にはこれもわかりません。
もしかすると多くのお金を払って人間ドックを受ける人たちの方が、より健康に対する意識が高く、「きちんと毎年検査を受けているから早期がんの割合が高かった」だけなのかもしれないのです。
2つのグループを比べる時、グループの条件に「偏り(バイアス)」がないかどうか考えることはとても重要です。
2.じゃあ、どうすればいいのか?
バリウム検査と胃カメラ、どちらが有用か本気で白黒はっきりさせようとしたら、何万人~何十万人の患者をランダムにバリウム検査と胃カメラに割り振って、結果を両者で比較するという、めまいがするような大掛かりな臨床試験が必要です。
(ここでいう「ランダム」というのは、たとえば全員にサイコロを振ってもらって、奇数はバリウム、偶数は胃カメラにするなど、割り振りをまったくの偶然に任せる、という意味です)
これを現代の日本でやることは至難の業です。まず無理でしょう。
状況証拠的には胃カメラの方が優れていると推測できるものの、結局、 「どちらが胃がんの発見率が高いかは、はっきりわからない」というしかないと思います。
3.バリウム検査の構造的欠陥
しかし、そのようなあいまいな状況の中でも、私はやはり胃カメラの方が明らかに優れていると思います。
理由は2つあります。(つづく)
(文・イラスト 近藤慎太郎)
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