便潜血検査の実力は?

1.便潜血検査って?

 

今回は、大腸がん検診(二次予防)について説明します。大腸がんやポリープを発見するためにはどんな検査があるでしょうか?

 

現在、健診や人間ドックで大腸がん検診としてまず行われるのは便潜血検査です。

これは、便の一部を容器に入れて提出し、「便の中に血液が混じっていないかどうかをチェックする」という検査です。

何も問題がない正常な大腸粘膜から出血することはあまりないことですが、大腸がんやポリープなどの病変があれば、便が通過するときに擦れて出血し、便に血液が付着する可能性があります。

それが起きていないかどうかをチェックする、というのが基本的な考え方です。

 

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この検査のメリットは、とにかくかんたんということにつきます。

生理的に排泄される便を使うので、採血のように採血針を刺す痛みすらありません。

患者さんにとってかんたんで、負担がなく、医療施設にとってもマンパワーを必要としない。

第1段階のスクリーニング検査としては文句ありません。

 

ただし、大腸がんやポリープ自体ではなく、その結果起こるかもしれない出血の有無をチェックするという、あくまで間接的な検査に過ぎません。そのため、診断能力は決して高いとは言えないので注意が必要です。

 

 

2.便潜血検査の実力は?

 

では便潜血検査の診断能力は、はたしてどれぐらいなのでしょうか?

初期の報告では便潜血検査を毎年行うことによって、大腸がんの死亡率を33%下げたといわれています。(注1)

 

これは臨床医学の世界では最高峰の雑誌に乗った有名な論文です。

大腸がんに対する便潜血検査の有用性を証明し、世界中で大腸がん検診として便潜血検査が行われるきっかけになりました。

 

しかし下げたのは33%です。残念ながら100%ではありません。

なぜ100%ではないかというと、大腸がんなどの病変があっても、たまたま血液が混じらなかったため検出できなかった、という事が十分にありえるからです。

その結果、67%の大腸がんは救命できていないのです。

 

これは1993年の報告なので、さすがに今の便潜血検査の能力はもっと上がっていますが、それでも決して完全ではありません。報告によってばらつきがありますが、大腸がんを1回の便潜血検査で指摘できる可能性は30-56%、2-3回くりかえして84%といわれています。(注2-4) (つづく)

 

(文・イラスト 近藤慎太郎)

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

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(注1) Mandel JS, et al. Reducing mortality from colorectal cancer by screening for fecal occult blood. N Engl J Med 1993; 328: 1365-71

(注2)Nakama H, et al. Colonoscopic evaluation of immunochemical fecal occult blood test for detection of colorectal neoplasia. Hepatogastroenterology 1999; 46: 228-31

(注3)Park DI, et al. Comparison of guaiac-based and quantitative immunochemical fecal occult blood testing in a population at average risk undergoing colorectal cancer screening. Am J Gastroenterol 2010; 105: 2017-25

(注4)Rozen P, et al. Risk for colorectal cancer in elderly persons and possible methodologies for their screening. Eur J Gastroenterol Hepatol 2011; 23: 431-7