さて、ここで便潜血検査にまつわる誤解をまとめておきます。
ピロリ菌と同様に便潜血検査についても、患者と医師の両方に多くの深刻な誤解が蔓延しています。
そしてその誤解は、胃がん検診における誤解よりも深刻な事態を生じる可能性が高いのです。
1.「陰性だから問題がない」という誤解
前述したように、大腸がんやポリープなどの病変があるのに陰性と出てしまい、治療すべき病変を見逃すケースは多々あります。
2.「陽性になったのでもう一度便潜血検査をして確かめる」という誤解
これも実に多い誤解です。医師が勧める場合すらあります。
便潜血検査は通常2回やります。これは、病変があっても陰性になってしまうケースをできる限り減らすための工夫です。当然、2回中1回でも陽性になれば「便潜血陽性」と診断されます。つまり、陽性になった後にもう一度確認して陰性になったとしても、それは結局陽性と判断されるべきケースなのです。一度陽性が出たという事実は、その後何回陰性になったとしても消えるわけではありません。
3.「痔があるから陽性になっただけ」という誤解
こう思いたい心情はよく理解できます。便潜血陽性で私の外来に来られる方の3人に1人は、第一声がコレです。
実際に痔のせいで陽性になることもありますが、もちろん痔と病変の両方があっても全くおかしくありません。自分は痔があるから陽性になっているだけなんだと早合点して精密検査を受けないでいると、実は大腸がんもあって、放置している間にどんどん進行してしまったということもありえるのです。
便潜血検査についての誤解が多いのは、診断能力が決して高くなく、結果の解釈が難しいからでしょう。
もちろん、やらないよりはやった方がずっといいです。それは間違いありません。しかし、その限界についてもよく知っておかなくてはいけません。特に、がんの予防の上で大切なポリープの診断能力が低い点に十分な留意が必要です。
これは私見ですが、現状の様々ながん検診の中で、大腸がん検診が一番大きな落とし穴になっていると思います。
さらには、せっかく便潜血検査で引っ掛かったのに、精密検査を受けないままでいるケースがとても多いです。
以前、バリウム検査でこぼれ落ちる人が多いと解説しましたが、それと同様のことがここでも起きているのです。
この点については、機会をあらためて詳しく解説いたします。
(文・イラスト 近藤慎太郎)

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」
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