『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』 渡辺俊美 (書評・近藤慎太郎)

作者はバンド『TOKYO No.1 SOUL SET』のギタリストです。

また、同じ福島県出身である山口隆サンボマスター)たちと『猪苗代湖ズ』を結成し、2011年の紅白歌合戦にも出場しています。ご覧になった方も多いのではないでしょうか。

 

紅白の少し前、作者は妻と離婚したそうです。

そして中学生の一人息子の親権は作者が得て、父子の二人ぐらしが始まったのです。

 

そんな事情も影響したのかもしれませんが、息子さんは高校受験に失敗してしまいます。

しかしなんとか踏ん張って翌年再受験し、今度は無事合格しました。

 

そこで作者は頑張っている息子さんを何とか応援したいと考え、二人で相談した結果、「高校の3年間は毎日お父さんがお弁当を作る」という約束を交わしたのです。

 

その3年間を記録したものが、本書『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』です。

461個の弁当は、親父と息子の男の約束。

461個の弁当は、親父と息子の男の約束。

 

 

おそらく作者にも色々な思いがあったのだと思います。

母と離ればなれにさせてしまったこと。

寂しい思いをさせていること。

母親役もしなくてはいけないこと。

 

その思いがこれだけ途方もない約束(私見です)へと結実したのでしょう。

 

お子さんがいる男性のみなさんは、来る日も来る日も毎朝お弁当を作り続ける自信がありますか?

少なくとも、私はまったくありません。絶対そんな約束はしないと思います(笑)。

 

作者はもともと料理も好きだったようです。凝り性で、上達するまで同じものを何度も作り続けたりもしていたようです。

しかし、たとえ素地があったとしても相当大変だったはずです。

なにせ作者はミュージシャンで仕事は不規則で不在がち。

それでも、二日酔いの日も、早朝に帰宅した日も、休まず作り続けたそうです。

そうして作り続けたお弁当の写真がたくさん載っているのですが、手抜きをしていないことはもちろん(冷凍食品は一切使っていない)、どんどん腕前が上達していることが見て取れます。

本当に脱帽です。

 

好きなものをたくさん入れて、お弁当を開けた瞬間、息子さんを喜ばせたい。

どんな時でも箸が進むよう、美味しそうに見せたい。

そして体にいいものを食べて健康に育ってほしい。

 

そんな思いが全編からヒシヒシと伝わってきます。

 

ブロッコリーは塩ゆでしているとき、鍋にお酢を少し垂らすと、すごくきれいな緑色になって上がってきます。」43ページ

 

「色が散らばってしまったと感じたときは、真ん中にミニトマトを一つ置いてみると、なぜか全体がまとまって見えます」44ページ

 

「息子が大好きなしょうが焼き。初春はまだ寒いので、体が温まるよう、いつもより多めのしょうがを入れた。」59ページ。

 

「高知から送られてきた初がつおは、さすがに生のまま弁当に入れられないので、にんにく醤油で一晩漬けて竜田揚げにしました。」71ページ

 

実に愛に溢れた文章です。

挙げていたらキリがないほど全体にちりばめられています。

 

きっとお弁当は毎日はっきりと目にすることができて、心も体も満たすことができる、とても分かりやすい愛情表現であったんだろうと思います。

自分のことを気づかってくれている、愛してくれているということを毎日毎日確認できる。

たとえ会えない日があったとしても、お弁当が父子のコミュニケーションを介在し続けていたのでしょう。

 

それがどれだけきちんと息子さんに伝わっているかは、本書の末尾にある息子さんからのコメントで見て取れます(ここではあえて書きませんが…)。

高校を卒業したばかりの息子に、これだけ素直で親愛の情に満ちた感謝を受けられるような父親が世の中にどれほどいるのか、はなはだ疑問です。

 

こんな一文もありました。

息子さんが高校の単位の取得のために遠出をするときに、

 

「食べたらすぐ捨てられるよう、竹の皮の箱にしましたが、持って帰ってきてくれました。」39ページ

 

素晴らしい父子関係ですね。

やっぱり私もお弁当を作った方がいいのかな。(笑)

 

(文・近藤慎太郎)

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