『BLUE GIANT SUPREME ブルージャイアントシュプリーム』 石塚真一 (書評・近藤慎太郎)

BLUE GIANT SUPREME 4 (ビッグコミックススペシャル)

BLUE GIANT SUPREME 4 (ビッグコミックススペシャル)

 

 

山岳救助をテーマとした『岳』で高い評価を得た作者による、長編2作目。

 

仙台で高校生活を送る大(だい)がサックスと出会い、世界一のプレイヤーを目指してひたすら熱くJAZZに打ち込んでいく物語です。

厳密には国内篇の『BLUE GIANT』全10巻と、ドイツ篇で現在連載中の『BLUE GIANT SUPREME』に分かれています。

 

BLUE GIANT 1 (ビッグコミックススペシャル)

BLUE GIANT 1 (ビッグコミックススペシャル)

 

 

BLUE GIANT SUPREME 1 (ビッグコミックススペシャル)
 

 

岳 (1) (ビッグコミックス)

岳 (1) (ビッグコミックス)

 

 

音楽をテーマにしたマンガは、当然その音を聴くことができないという決定的なハンディを持っています。しかし本作は、それを圧倒的な演出力と高い熱量を持った描写で、完璧にアドバンテージに逆転させてしまいました。

「聴こえない」ことによって、読者がそれぞれ脳内で素晴らしい音楽に補完して「聴こえている」。登場人物たちが、今どれぐらい素晴らしい演奏をしていて、聴衆がどんなに圧倒されているのか、確かにヒシヒシと伝わってくるのです。

 

前作の『岳』も素晴らしかったし、もう作者は完全にマンガの歴史において「殿堂入り」を果たしたな…と途中までは思っていました。

思っていたのですが、『BLUE GIANT』の8巻あたりでかなり雲行きが怪しくなってきます。

詳細な解説は避けますが、主人公の音楽的資質を揺るぎないものにせざるを得なかったからでしょうが、立ち位置がしっかりと確保され過ぎてしまうのです。その結果、挫折や困難と無縁になってしまい、徐々に感情移入ができなくなる。ややもすれば、単なる傲慢なヤツに成り下がってしまっているほどなのです。

そしてまるでそれを埋め合わせるかのように、もう一人の登場人物の苦しみや努力にフォーカスが完全に合ってゆきます。おそらく大半の読者はこちらに感情移入しているはずです。完全に主人公の立場と逆転してしまっています。

 

ここからは邪推かもしれませんが、作者も編集者も相当焦ったのではないでしょうか。このままではうまく話を軌道修正できないし、主人公を再び輝かすこともできない…。

そこで『BLUE GIANT』10巻でもう一人の登場人物は、実に唐突に強制退場となってしまいました。それを受けて、主人公はJAZZの武者修行としてドイツに旅立っていく…。

ここは驚くほどバタバタと話が畳まれてしまい、賛否両論あるようですが、少なくとも私はまったくついていけませんでした。そこまでの物語が素晴らしかっただけに、あっけにとられてしまったのです。

それもあって、ドイツ篇の『BLUE GIANT SUPREME』が始まっても読む気が全く起きず、4巻が出るまで手に取ることはありませんでした。

 

しかし、そこは殿堂入りを果たそうかという作者のことです。この状態からどこに向かおうというのか確認してみようと思い、再び読み始めました。

そして結論から言うと、現状までに限って言えば、強引にでもドイツ篇を始めたことは正解だったと思います。

日本人である主人公は、ドイツという異国で否応なく困難を強いられます。音楽的な部分においてはやはりほとんど苦悩しませんが、生活面やメンバー集めの面での苦労が、読者を再び主人公に感情移入させることに、ある程度成功しているのです。

しかしまだ安心はできません。

BLUE GIANT』もメンバー集めのところは非常にワクワクする魅力にあふれていました(ここはどのマンガでもRPGでも鉄板と言える部分です)。そして『BLUE GIANT SUPREME』は今同じ過程をドイツでなぞっているだけとも言えます。

問題は今後の展開です。『BLUE GIANT』と同じ轍を踏んでしまうのか。それとも一段上のステージに昇華するのか。物語は、非常に重要なターニングポイントに差し掛かっています。次巻あたりから、作者の真価が問われることになるでしょう。

 

(文・近藤慎太郎)

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