『10万個の子宮』 村中璃子 (書評・近藤慎太郎)

 

みなさんはHPVワクチン問題をご存知でしょうか?

 

子宮頸がんの発症に強く関連するウイルスであるヒトパピローマウイルス(HPV:Human Papillomavirus)は、ワクチン接種をすることによって、感染をある程度防ぐことができます。

しかし、接種することによって重い副反応が出たという報告が相次ぎ、HPVワクチンの接種は激しい議論の対象となってしまっているのです。

 

HPVには100種類以上のサブタイプがあり、そのうちの約15種類(特に16番と18番)が頸がんのリスクを上げることが分かっています。

それらに対して、日本では2価ワクチン(16、18番を予防)と4価ワクチン(6、11、16、18番を予防)が使用可能で、標準的には、中学1年生になる年度に合計3回接種します。

 

日本では、2010年にHPVワクチンが公費助成の対象となり、2013年から定期接種化されました。

しかし、ほどなく非常に重い「副反応」の報告が相次ぎ、同年6月に厚労省が「積極的な接種勧奨の一時差し控え」を決定し、5年以上経過した現在でもその状態が継続されています。

その結果、全国で約70%と非常に高かった接種率が、現在では1%以下まで落ち込んでしまっているのです。

世界的に見てもきわめて特異な状況になっており、WHOは「そのせいで頸がんの死亡率が上昇している」と日本を名指しで批判しているほどです。

 

前置きが長くなりましたが、本書『10万個の子宮』は、ワクチン接種と副反応の関係と、それがどうしてさしたる検証も経ないままに自明のこととして扱われていったのかということを、科学的に、そして徹底的に追求しています。

 

そこで私たちが目撃するのは、センセーショナルなニュースというものがいかに恣意的に、そして非中立的に作られ、とても多くの人々に瞬間最大風速的に強い影響を与え、その後の経過は顧みられない、ということです。

 

フェイクニュースをはじめメディアのあり方や、なんであれ正確な情報を入手する困難さについては、色んな場所で盛んに報じられています。しかし、私たちはいまだに有効な手立てを見つけることができていないし、今後も見通しは明るくないと言っていいのではないでしょうか。

聞きかじった情報、何となくの印象で、私たちがいかに多くの物事を判断しているかということを、ヒシヒシと感じさせてくれる一冊です。

 

内容については、私は多少違う考えを持っている(それに関しては近日中に改めて解説する機会がありそうです)のですが、筆者が様々な逆風の中で成し遂げたことに敬意を表したいと思います。

 

(文・近藤慎太郎)

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