これは素晴らしい小説でした。
本文が450ページ以上ある長編ながら、1回もだれることなくグイグイ読むことができました。
このリーダビリティの高さはただ事ではありません。
日本における公教育と学習塾産業。前者を太陽とするならば、後者は日陰者の月。お互いを憎み合いながらも複雑に絡み合って発展していった歴史を、学習塾産業に関わった一族の、三代にわたる登場人物の姿を追いながら活写していく物語です。
著者は登場人物の姿を借りて、日本の教育システムがいかに子どもたちを振り回してきたか、そしてその根底には実に根深い、官僚主義的なエリーティズムがあることを糾弾し続けています。
とはいえ、堅苦しい小説では決してありません。
「家族」や「教育」という呪縛に翻弄される登場人物たちの喜怒哀楽に共感し、
形を変えつつも、リレーのバトンのように世代から世代へと受け継がれていく信念に心を動かされます。
全編に漂うユーモアにクスリと笑い、ラストでははじんわりとした温かさを感じられるでしょう。
小説の醍醐味を存分に味わえる作品です。オススメです。
(文・近藤慎太郎)
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