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2016/09/29 近藤慎太郎
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2016/09/29 近藤慎太郎
前回の結論は、状況証拠的には胃カメラの方が優れていると推測できるものの、結局、「どちらが胃がんの発見率が高いかは、はっきりわからない」という事でした。
しかし、そのようなあいまいな状況の中でも、私はやはり胃カメラの方が明らかに優れていると思います。
理由は2つあります。
1つは、「バリウム検査で病変があった場合、後日胃カメラが必要になる(二度手間になる)」ということです。
これはなんてことないように見えて、実はバリウム検査の致命的な弱点だと思います。
どういうことでしょうか?
前回のマンガの、
この部分に注目してください。
これを言い換えると、
「せっかくバリウム検査で引っ掛かったのに、38.5%の人は精密検査を受けず、
その結果、3262人(8478-5216)の胃がん患者が無治療のまま放置されている。」
ということになるのです。
これは実に由々しき問題です。
精密検査を受けなかった理由は色々あると思います。
「めんどくさかった」
「うっかりしていた」
は容易に想像できますし、
「怖くなった」
というのもあるでしょう。
いずれにしても、そのような理由が入り込む余地を与えてしまったのは、
「バリウム検査」
↓
「精密検査(胃カメラ)」
という時間的、心理的な段階を踏まなくてはいけない構造にあります。
段階があれば、そこでこぼれ落ちる人が必ず出てきます。
ここがバリウム検査の致命的、宿命的な弱点の1つです。
最初から精密検査になっており、1回で確定診断に至ることが多いので、
受診者が思い悩んで道を踏み外す余地がほとんどないのです。
実はこれが胃カメラが相対的に優れているポイントです。
バリウム検査で食道を詳細に観察することは困難です。
食道にバリウムが流れる数秒の間に、パシャパシャっと数枚レントゲンを撮る、というのが一般的です。これでは早期の食道がんを発見することはほとんど期待できません。
胃カメラの場合は違います。泡やカスがあれば洗い流し、送気して食道を膨らませてじっくり観察し、特殊な光を当ててがんを鮮明に浮かび上がらせることもできます。
「食道を詳細に観察することができる」
これが私が胃カメラが優れていると考えるもう1つの理由です。
「あくまで胃がん検診の話なんだから、違う臓器である食道を理由にするのはおかしいのでは?」
と思う人もいるかもしれません。
もっともな疑問ですが、これには理由があります。
食道は口と胃をつなぐ管状の臓器で、体の構造上、バリウム検査であっても胃カメラであっても、胃を観察する前に必ず食道を観察することになります。
つまり、胃がん検診は事実上食道がん検診も兼ねていることになります。
これもなんてことないように見えて、極めて重要なポイントです。
もし食道がんの頻度が極めて低ければ、胃がん検診は胃がんのことだけ考えて優劣を論じればいいでしょう。
10万人あたり16.9人で、6番目に多いがんになっています。
確かに胃がん検診は胃がんを発見するために始められたものであり、今でも建前上はそうなっていると思います。
しかし頻度からいっても、胃がん検診において、食道がんのことを無視して考えることはできなくなっています。
そのため、食道の詳細な観察ができる胃カメラの方が、バリウム検査よりも優れていると言わざるをいないのです。
胃がん検診の優位性を決めるにあたって、当の胃がんよりも、付随的な目的であったはずの食道がんの診断能力に大きな差があり、その点を重視して考える必要があるという、ある種の関係性の逆転があるのです。
本来であれば、胃がん検診におけるバリウム検査と胃カメラの違いについて検討したのちに、「どのリスク因子を持った方にはどの検査をどれくらいの間隔で受けるのがいいか」という一番実践的な内容を解説する予定でした。
しかし、上記の理由から、その前に食道がんについて詳細に解説する必要があるのです。
(文・イラスト 近藤慎太郎)
胃がん、大腸がんもふくめて、10種類のがんの解説をいたしました!胃カメラや大腸カメラの受け方についてもさらに詳しく解説しているので、ぜひご一読ください!
さて、2回にわたってバリウム検査と胃カメラの長所と短所を解説いたしました。
ざっくりまとめると、
1.バリウム検査は決してラクではない(体位変換が大変、誤嚥のリスク、バリウムが固まって便秘になる…)。医療被曝する。病変があった場合は胃カメラが必要(二度手間になる)。
2.胃カメラは嘔吐反射が苦しい。出血、穿孔のリスクがある。
3.胃カメラは病変があった場合、組織検査をして確定診断も可能(←すみません、これ前回書き忘れました!)。
4.胃カメラには選択肢が3つ(オーソドックスな口からの胃カメラ、麻酔の注射を使う胃カメラ、鼻からの胃カメラ)ある。ただし胃がんのリスクが高い人は鼻からのカメラはおすすめしない。
では、肝心の胃がんの発見率はどちらが高いのでしょうか?
たとえば、慢性胃炎が強い人が「自分は胃がんのリスクが高い。検診はバリウム検査ではなく、胃カメラを選択しよう。」と考えるのは極めて自然です。
そういう人が胃カメラを受けたグループの中に多ければ、そもそもそのグループは胃がんのリスクが高い人たちで構成されているということになります。
その結果、胃がんが見つかる可能性がバリウム検査のグループよりも、2倍高くなっているかもしれないのです。
では「早期」胃がんの発見率はどうでしょうか?
平成25年度消化器がん検診全国集計によると、バリウム検査で発見したがんのうち74.8%が早期がんでした。
一方、2014年の人間ドック全国集計成績報告によれば、発見された胃がんのうち81.4%が早期がんでした。
後者は人間ドックの集計なのでバリウム検査だけではなく胃カメラも含まれており、胃カメラの方が早期がんを見つけやすいから、割合が高くなっていると考えるのが普通でしょう。
ただし厳密にはこれもわかりません。
もしかすると多くのお金を払って人間ドックを受ける人たちの方が、より健康に対する意識が高く、「きちんと毎年検査を受けているから早期がんの割合が高かった」だけなのかもしれないのです。
2つのグループを比べる時、グループの条件に「偏り(バイアス)」がないかどうか考えることはとても重要です。
バリウム検査と胃カメラ、どちらが有用か本気で白黒はっきりさせようとしたら、何万人~何十万人の患者をランダムにバリウム検査と胃カメラに割り振って、結果を両者で比較するという、めまいがするような大掛かりな臨床試験が必要です。
(ここでいう「ランダム」というのは、たとえば全員にサイコロを振ってもらって、奇数はバリウム、偶数は胃カメラにするなど、割り振りをまったくの偶然に任せる、という意味です)
これを現代の日本でやることは至難の業です。まず無理でしょう。
状況証拠的には胃カメラの方が優れていると推測できるものの、結局、 「どちらが胃がんの発見率が高いかは、はっきりわからない」というしかないと思います。
しかし、そのようなあいまいな状況の中でも、私はやはり胃カメラの方が明らかに優れていると思います。
理由は2つあります。(つづく)
(文・イラスト 近藤慎太郎)
胃がん、大腸がんもふくめて、10種類のがんの解説をいたしました!胃カメラや大腸カメラの受け方についてもさらに詳しく解説しているので、ぜひご一読ください!
がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」
ここで、皆さんの中には「胃カメラか…。」と暗い気持ちになっている方も多いと思います。
「胃カメラをするとオエオエえずいて大変。よだれと涙と鼻水でグチャグチャになる。」という方もいらっしゃるでしょう。
残念ながら、胃カメラが苦しいというのは誤解とは言えません。
胃カメラは、腹部の超音波検査(エコー)のようにベッドに横になっていればおしまい、という検査とは違います。場合によっては非常に苦しくなってしまうことがありえるのです。
なぜ胃カメラが苦しいのかというと、人間には「嘔吐反射」と言う生理的な反射があるからです。
誰でもノドの奥に指を入れるとオエッとなるはずです。これが嘔吐反射です。
指の代わりに胃カメラを入れても同様のことが起こります。
これは人間には誰しも備わった体の機能なので、胃カメラを入れるとオエオエするという方がむしろ自然なことなのです。
ただし嘔吐反射があまりにも強いと、胃と食道のつなぎ目が裂けて出血することがあります。
また非常にまれですが、胃カメラでのどや食道の壁を傷つけて穴が開いてしまうことがあります(穿孔といいます)。
嘔吐反射や緊張が強ければ強いほど、これらの偶発症が起こる頻度が高まってしまうので、やはりできるだけ胃カメラをラクに受けるための工夫が必要になってくるのです。
まず、検査の前には必ずノドの局所麻酔をします。
これにはドロッとした液体を含むやり方と、スプレーを散布するやり方があり、施設によっては併用する場合もあります。
この麻酔は刺激が強くて少し不快なのですが、これをしっかりやればやるほど嘔吐反射が抑えられ、胃カメラ自体はラクになります。
次に、検査中は深呼吸が大事です。一般的に「鼻から吸って口から吐く呼吸で」といいますが、みなさんそれぞれがやりやすい方法で結構です。とにかくゆっくり大きな深呼吸を続けます。
よくベロを動かして胃カメラが口の中に入ってくるのをブロックしようとする方もいますが、無駄な抵抗はやめましょう。ベロは下あごにピタッとくっつけて、ノドの奥をポカーンと大きくあけましょう。
ツバは飲み込むと気管に入ってむせ込むことがあるので、できるだけ飲まないで口の外に垂れ流します。
それでも苦しい!という方ももちろんいらっしゃいます。
その場合は2つの選択肢があります。
1つは、麻酔の注射を使う胃カメラです。
麻酔で意識をボーっとさせて嘔吐反射を抑え込む、という方法です。
使う麻酔にはいくつかの種類があり、一種類だけ使うのか、もしくはいくつか併用するのかで麻酔の深度が変わっていきます。
もちろん使えば使うほど麻酔がしっかり効いて検査自体はラクに受けられますが、その分麻酔の副作用が出るリスクも上がります。そして検査後に意識がハッキリするまで病院の中で休む時間も長くなります。
また、当日は車の運転を控えた方がいいので、病院までバスやタクシーなどの公共交通機関を利用する必要がでてきます。
もう1つの選択肢は鼻から入れる胃カメラです。
実は胃カメラを鼻から入れると、単に解剖学的な理由で嘔吐反射が出にくくなるのです。
たとえば筆者の場合は、口からの胃カメラではかなり嘔吐反射が出る一方、鼻からだとほぼゼロでした。
「1時間でもできる」と思ったほどです。
ただしこれには個人差があり、中には「思ったほどラクじゃなかった」という方もいます。
また、鼻の中は複雑な構造になっているので、胃カメラがぶつかることによって痛みを感じたり、鼻血が出たりすることがあります。
これは私見ですが、がっちりとした体格の男性だと鼻からの胃カメラの恩恵が大きい(嘔吐反射が出にくい)ですが、鼻の小さな女性は鼻血のリスクもあり、口からの胃カメラの方が向いているように思います。
またその他の注意点として、鼻からの胃カメラは口からの胃カメラに比べて挿入する部分が細くなっているので、その分どうしても機能が犠牲になってしまっています。
画質がやや劣りますし、胃の中のアワなどを吸引してキレイにするのに時間がかかってしまうというマイナス面があります。
以上のように、胃カメラの選択肢には、
の3種類があります。
ただし施設によっては一部の選択肢がない場合もありますので、検査を受ける場合には事前の確認が必要です。
どの選択肢にも一長一短があるので、これが正解というものはありません。
そして胃カメラは一度受ければそれでおしまいという検査ではないので(検査間隔については改めて詳しく解説します)、まずは一番興味がある選択肢を選び、場合によっては次回に他の選択肢を試すことによって、徐々に自分に一番合っているやり方を見つける、カスタマイズする、という心構えがいいと思います。
ただし大事な留意点として、慢性胃炎が強いなど胃がんのリスクが高い方は、機能の点から鼻からの胃カメラはお勧めしません。1か2を選んだ方が安全だと思います。
(文・イラスト 近藤慎太郎)
胃がん、大腸がんもふくめて、10種類のがんの解説をいたしました!胃カメラや大腸カメラの受け方についてもさらに詳しく解説しているので、ぜひご一読ください!
がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」
「症状がないから検査は必要ないよ。」
患者さんに胃がん検診をすすめると、時々このような反応が返ってきます。
もちろんこのような反応も、心情的にはよく理解できます。
なぜなら普段の生活で私たちがかかる一般的な病気は、なんらかの症状を伴うことが多いからです。
風邪であれば咳や鼻水、発熱があります。
腸炎になれば下痢、嘔吐、腹痛があります。
そのため、どうしても「症状がないということは何も病気がなくて健康だ」と考えてしまいがちです。
一般的にはそれでいいのですが、命に関わるような深刻な病気なのに、進行するまでなんの症状もなかったというケースも決してまれではありません。
今まで少なくとも見かけ上は健康そのものだった人が突然心筋梗塞を起こしたり、脳出血を起こしたりして亡くなったという話を、身近に聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
がんの場合も同様です。初期の場合はほとんど症状が出てきません。
特に、胃や大腸などの消化管のがんは、その傾向が顕著です。
なぜかというと、胃の粘膜は、痙攣したり急性の炎症が起きたりしない限り、痛みなどの感覚が生じないようにできているのです。
たとえば、食事中に「あ、今食べたものが粘膜を押しているな」とか、
「食べたものが胃の奥の方に移動しているな」などと感じる方はほとんどいないと思います。
胃という臓器は繊細なようでいて、実は非常に鈍感な一面もあるのです。
そのため、粘膜にがんができて増殖しても、それを症状として感じることはできません。
自分の知らないうちに、がんが発生し、それがどんどん大きくなって進行してしまっている、ということがありえるのです。
ということは、胃がんを早期に発見するためには、たとえ無症状であっても積極的に検査を受けて、
定期的に胃の中をチェックしておく、というスタンスが必要になってくるのです。
「症状がない=病気がない」ではないのです。
胃の検査は大きく2つに分けられます。
バリウムを飲んでレントゲン写真を撮る胃Ⅹ線撮影(以下、バリウム検査)と、
先端にレンズのついたスコープを口から入れて胃の検査をする上部消化管内視鏡検査(以下、胃カメラ)の2つです。
市区町村など自治体の胃がん検診では主にバリウム検査を行い、人間ドックなどでは両方選択できるところが多いと思います。
では胃がん検診のためには、胃カメラとバリウム検査のどちらを選べばいいのでしょうか?
結論から言うと、両方有用ですが、胃カメラに軍配が上がります。
これは医師のあいだではほぼ疑問の余地のないことです。
実際に、消化器の医師で自分の胃がん検診をバリウム検査で行っているという人はほとんどいないと思います。少なくとも私の周囲には一人もいません。
胃カメラの方がいいという理由を説明する前に、とにかくまず強調したいことは、一般に「バリウム検査の方がラク」というイメージが広まっていますが、これは全くの誤解です。
受けたことがある方はお分かりだと思いますが、決してラクな検査ではありません。
ラクかどうかという観点以外にも、バリウム検査のマイナス面がいくつかあります。
まずレントゲン撮影をするので医療被ばくをする問題がありますし、病変の存在が疑われる場合には、後日改めて胃カメラを受ける必要があります(つまり二度手間になります)。
また、バリウム検査で食道を詳細に観察することは困難であり、早期の食道がんを発見することはほとんど期待できません。
これは実は非常に重要な事なので、食道がんの項目で改めて詳しく解説します。
(文・イラスト 近藤慎太郎)
胃がん、大腸がんもふくめて、10種類のがんの解説をいたしました!胃カメラや大腸カメラの受け方についてもさらに詳しく解説しているので、ぜひご一読ください!
8月20日土曜日、スルガ銀行たまプラーザ支店にて、『誤解だらけのがん検診』の講演会を開催してきました!
行ってまずなによりも驚いたのが、お店のオシャレさ。
とても銀行とは思えません~!
図書館のようなカフェのような…。
たまプラーザは若い家族も多い新しい街なので、街の雰囲気に合わせた作りになっているのでしょう。
全面ガラス張りの吹き抜けは、晴れた日には日光が燦々と降り注ぐ、憩いのスペースになっています。
ただ当日は、台風の影響で「土砂降り」でしたけど…。
「もしかすると誰も来ないのでは…」と危惧していましたが、開始時間には予定したほぼ全員が出席で、とても多くの方に集まっていただきました!
がん検診にまつわる関心の強さとともに、なにをどうすればいいんだろうという戸惑いも強いのではないかと感じました。
質疑応答も非常に活発に行われ、あっという間の2時間でした!
とっても素敵なスペースです
さあ、スタートです!
一生懸命メモをする方も大勢いらっしゃいました。
講演では大腸がん検診についても解説しています。ブログで解説するのはいつの日になるのか…。
さいわい、ご参加いただいたみなさん全員から、大変ありがたいお言葉を頂戴しました!その一部をご紹介いたします。
『すごく丁寧で、一般の方に向けたわかりやすい説明でとても参考になりました!ありがとうございました。』(20歳代女性)
『非常に分かり易く大変ためになったセミナーでした。ありがとうございました。』(40才代男性)
『非常に分かり易くご説明して頂き、今後の健康管理、リスク管理の指針を図りました。ありがとうございました。』(50才代男性)
『一番身近な病気であるがんについて、にも関わらず、あまり私は無知ながんについて、勉強になりました。やはり、保険をかけているだけではなく、自分の命は自分で守る、という基本的な事を改めて思いました。ありがとうございました。』(30才代女性)
『胃がん、大腸がんについての認識が深まり、いっそう健康への意欲が高まりました。ありがとうございました。』(40才代男性)
ご参加いただいたみなさん、本当にありがとうございました!また、ブログを見て興味を持たれた方、今後も講演会は続けてまいりますので、またの機会によろしくお願いいたします!(^^)
ピロリ菌については、とても深刻な誤解が世の中に蔓延しています。
そして残念ながら、医師自身が誤解の普及に一役買っているケースすらあるのです。
それでは、ピロリ菌についてのよくある誤解を見ていきましょう。
胃潰瘍や胃がんができた方のピロリ除菌は以前より保険適応ですが、
慢性胃炎の除菌が保険適応になったのは2013年2月と比較的最近のことです。
つまりそれまでは慢性胃炎は原則的に治療の対象ではありませんでした。
そして過去にそのように説明を受けているため、「自分は慢性胃炎に過ぎないので治療は必要ない」と思い込んでいる方がまだいらっしゃいます。
また、その意識が完全に抜けきらない医師も時々います。
この誤解も多いです。
前回解説した通り、慢性胃炎が軽度の人、つまり「ピロリ菌感染→慢性胃炎→胃がんのリスク増大」という流れが進み切っていない人こそ除菌のメリットが一番大きいと考えられています。
これも前回解説した通りです。流れのスイッチがすでに押されてしまっているので、発がんのリスクをゼロにはできません。
実はこれが一番大きな問題になりうる誤解です。
「ピロリ菌が胃がんの原因なんだから、陰性ならいいのでは?」と思われる方も多いと思います。
しかし「ピロリ菌陰性」と「ピロリ菌に感染したことがない」は決してイコールではありません。
たとえば、過去に風邪などで抗生物質を内服した時に、「本人も知らないうちにピロリ菌が除菌できていた」というケースがありえます。
この場合も結果的に「3」と同様の状態になりますので、胃がんのリスクはまだ残っていることになります。
そしてさらには、実はピロリ菌陰性なのに、胃がんのリスクが最高レベルに高いというケースがあるのです。これはとても重大なパラドックスなので、詳しく解説いたします。
この誤解については以前も触れました。
健康診断や人間ドックの場合は、全身の様々な臓器のチェックをしたのちに、みなさんに結果を説明するのはあくまで一人の医師です。そもそもの専門は消化器だったり、呼吸器だったり、腎臓だったりと様々であって、みなさんが健診で引っかかった項目の専門家とは限りません。もしもその項目が医師の専門外の分野であれば、細かい部分で間違った説明をしてしまうことはありえることです。
医師は専門外の分野の異常については軽く捉えてしまう傾向がありますし、患者さんも軽く捉えたいという潜在的な願望がありますので、あたかも阿吽の呼吸のように、話を流してしまうことがあるのです。
特に慢性胃炎やピロリ菌といった、今すぐに問題が顕在化するわけじゃないことに関しては、この傾向が顕著なのだと思います。
健診で引っかかった項目がある方は、くれぐれも結果を安易に考えることなく、専門の科を受診してご自身のリスクや病気について理解を深めるようお願いいたします。
さて、胃がんの一次予防を完璧にこなしたとします。
タバコはやめました。野菜と果物をきちんと食べています。塩分は極力減らしています。ピロリ菌の除菌もしました。
ではこれで終了なのかというと、残念ながらやはりそうではないのです。
もちろん一次予防の重要性に疑いの余地はありませんが、発がんのリスクをゼロにすることはできません。リスクの程度に応じてでかまいませんが、万全を期すのであればどうしても二次予防、つまり画像検査による「がん検診」が必要になってくるのです。
(文・イラスト 近藤慎太郎)