1.がんのリスク因子とは?
一次予防、つまり「がんになりにくい体質にする」ためには、「がんになる可能性を高めるリスク因子を除去する」ことが必要です。
では「リスク因子」にはどんなものがあるでしょうか?
これは大きく2つに分けられます。
「生活習慣」と「感染症」です。
「生活習慣」には
「アルコール(特に大量摂取)」
「タバコ」
「肥満」
「野菜不足」
「塩分過剰」
などがあります。いかにも悪そうなものばかりです。
「感染症」には
B型やC型の「肝炎ウイルス」
「パピローマウイルス」
「ヘリコバクター・ピロリ菌」
などがあります。
肝炎ウイルスは肝臓がん、パピローマウイルスは子宮頸がんや中咽頭がん、ヘリコバクター・ピロリ菌は胃がんの原因になります。これらの感染症を予防するためにはワクチン接種、すでに感染している場合はウイルスや細菌の駆除、ということになります。
生活習慣を是正することと、感染症を回避することが一次予防の核心になります。
もしかするとここで、「そんなこと本当に効果があるの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。一次予防というのは少し地味で、ともすれば軽んじられてしまう傾向があります。しかしそこには、いわば「錯誤のようなもの」があると私は思うのです。
2.予防できた事は認識できない
どういうことかというと、もしも適切な一次予防によってがんを予防できたとしたら、それを実感として認識することは誰にもできません。実際に病気を発症し、治療を受けて治った場合には、「ああ、病気ができたけど治ってよかったな」と実感することができます。しかし、予防によって起きなかった悪いことを「ああ、避けられてよかったな」と実感することは理論上誰にもできないのです。
このもどかしさは予防医療が決して逃れることができない宿命です。
しかし、ここは一歩踏みとどまって、理性的に考えることが必要です。
誰しも、
「落ちるといけないから駅のホームの端を歩かないでおこう」とか、
「夜に暗い道を歩かないようにしよう」とか、
「今日は体調が悪いからムリはしないようにしよう」とか、
実生活の中で念のためにしている安全策が多々あると思います。
そして実感できないだけであって、やっておいたから実は回避できていたという事故や事件が本当はあるのだと思います。そこに巻き込まれてしまった人と回避できた人の差は、やはり日頃のちょっとした安全策の積み重ねなのではないでしょうか。私たちは誰しもその点にもっと意識的になるべきなのだと思います。
起こってしまってからでは遅いのです。下げられるリスクがあるなら下げておく、というのが賢明なスタンスです。
3.リスク因子の有無が二次予防(がん検診)のウェイトを決める
以上のように、一次予防というのは、がんを遠ざけて健康な生活を送る上で、必要不可欠な戦術なのです。
そしてそれは実は数字にも換算できます。もし一次予防がきちんとなされれば、理論的には男性のがんの55%、女性の30%は予防可能とも言われているのです!(国立がん研究センター予防研究グループより)
もちろん、あくまで「理論的には」という話ではありますが、これはおろそかにできない数字です。
さらに、一次予防の重要性はそれだけにとどまりません。
自分が持っているがんのリスク因子を認識することは、がん検診(二次予防)をどのぐらいの間隔で受けるかを決める上で重要な指標になるのです。
つまりリスク因子が多ければ「検査は定期的にきちんと受けた方がいい」ということになりますし、少なければ「ある程度間隔を置いてもがんを見逃す可能性は小さい」ということになるのです。
このように、一次予防と二次予防の重要性は分かちがたく密接に関わりあっているのです。
もちろん、本ブログで取り上げるがんにもそれぞれ一次予防の方法があります。それらについては、二次予防の方法と併せて、これから各論で詳しく説明いたします。
さて、次回のテーマは・・・、お待ちかねの方もいるかもしれません。悪名高き「がんもどき理論」について取り上げます。(つづく)
文・イラスト 近藤慎太郎