小腸は検査しなくていいのか?

数回にわたり、大腸の検査方法について解説いたしました。

  





 

ここで最後に、小腸について補足説明いたします。

 

小腸というのは胃と大腸の間をつなぐ消化管で、およそ6メートルという消化管最大の長さを持つ臓器です。小腸は、十二指腸、空腸、回腸という3つの区域に分かれています。

 

検査しなければいけない範囲が非常に広大であることと、胃と大腸の間にある(つまり口からも肛門からも遠い場所にあるため、胃カメラも大腸カメラも届かない)ことから、小腸全体を詳しく観察するということは非常に困難であり、得られる知見が極端に少ないため、長らく暗黒大陸などと呼ばれていました。

 

その状況が変わったのは2000年に入ってからです。

小腸を観察するための画期的な検査方法が相次いで発表されました。

それが前述したカプセル内視鏡と、バルーン内視鏡(注1)という特殊なカメラです。

 

後者のバルーン内視鏡について本ブログで詳細に解説することは避けますが、この2つの検査方法が、お互いの弱点を補完しあいながら小腸についての知見を集積させ、暗黒大陸・小腸の実態は加速度的に明らかになりつつあるのです。

 

そして幸い、小腸から発生するがんというのは非常に稀であることが分かっています。今後も小腸ががん検診の対象となることはまずないものと思います。

 

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(文・マンガ 近藤慎太郎)

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

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(注1)Yamamoto H1, et al. Total enteroscopy with a nonsurgical steerable double-balloon method. Gastrointest Endosc. 2001;53:216-20.

大腸内視鏡(大腸カメラ) vs 注腸検査 vs CTコロノグラフィー vs カプセル内視鏡…。勝者は??

1.カプセル内視鏡のデメリット

 

カプセル内視鏡は、内服すればいいだけなので、大腸カメラや注腸検査より検査としてラクなことが大きなメリットです。 また、注腸検査やCTコロノグラフィーのような医療被曝もありません。

 

ただし、実はそもそもカプセル内視鏡小腸の検査を目的として開発されたものであって、小腸では抜群の実力を発揮しますが、残念ながら大腸の検査には不向きです。デメリットが多いのです。

 

病気などで消化管の一部が狭くなっている、もしくはそれが疑われる場合は検査が受けられなくなってしまいます。カプセル内視鏡が狭くなっている部分につかえてしまい、体外に排泄されなくなってしまう恐れがあるからです。

 

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また、注腸検査、CTコロノグラフィーと同様に、カプセル内視鏡の検査結果で病変を疑う場合は、改めて大腸カメラが必要になります(二度手間)。

 

さらに、カプセル内視鏡自体が非常に高度な技術によって作られている精密機器なので、人間ドックなどの健康チェックのために検査をすると10万円前後の金額になってしまいます。いくつかの条件をクリアして保険適応になったとしても、3割負担で3万円掛かることになります。

 

そして何より現実的に問題になるのは、下剤による大腸の洗浄が4つの検査の中で一番大変ということです。

カプセル内視鏡は大腸がきれいになっていればいいわけではなく、大腸の中を液体の下剤でいっぱいに満たして拡張させ、潜水艦のようにその中をもぐって観察する必要があるのです。

そのため、大腸カメラで飲む液体の下剤は通常1~2L程度ですが、カプセル内視鏡の場合は4~6Lも飲まなくてはいけません。

みなさんは今までの人生で、何かの液体を一度に4~6L飲んだことがありますか?私はありません。

この下剤は2Lでも時として大変ですので、4~6Lというのはかなり高いハードルといえるでしょう。

 

2.以上を総合すると…

 

各検査ともにメリット・デメリットがありますが、色々な点を天秤にかけて考えると、現状では大腸カメラが第一選択になるでしょう。実際に、便潜血検査が陽性の場合には、ほとんどの施設が精密検査として大腸カメラを選択していると思います。

 

ただし大腸カメラは胃カメラ以上に術者の技量が検査内容を左右する検査です。受ける場合にはできるだけ事前にリサーチをして、評判のいい施設または医師を受診するようにお勧めいたします。

 

(文・イラスト 近藤慎太郎)

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

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興味深さだったら…カプセル内視鏡!

1.大腸カメラ

2.注腸検査

3.CTコロノグラフィー

4.カプセル内視鏡

 

最後に「4」のカプセル内視鏡の説明です。これは長さ約3㎝のカプセル型の小型カメラを内服して、大腸全体を観察するという検査方法です。

 

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昔、『ミクロの決死圏』という映画がありました。

重傷を負った患者の命を救うため、人間を細菌の大きさまで縮小して患者の体内に送り込み、内側から手術をする…というなかなか飛ばした設定の作品です。

 

 

また、みなさんご存知『ドラえもん』にも、しずかちゃんが間違えて飲み込んでしまったお母さんのオパールを、ドラえもんのび太がスモールライトで小さくなって探しに行く、という話がありました。(「たとえ胃の中、水の中」)

  

ドラえもん (10) (てんとう虫コミックス)

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昔の人たちもずーっと、「こんなことができたらいいのに…」と空想していたと思います。それを現代のテクノロジーを使ってちからわざで実現してしまいました。脱帽です。

 

大変画期的な検査方法ですし、SF的なガジェットとしての魅力にもあふれています。

みなさん関心があると思いますので、2回にわたって少し詳しく説明していきます。

 

口から体の中に入ったカプセル内視鏡は、カプセルの両端にあるレンズで自動的に写真を撮り続け、最終的に肛門から排泄されていきます。

撮った写真のデータは体外のレコーダーに自動的に送信・記録されるので、それを後にワークステーション上で解析するという仕組みになっています。

レコーダーさえ持ち歩いていれば、検査中に動いたり、一般的な日常生活を送ったりすることも可能です。

 

カプセル自体は使い捨てで(そうじゃなきゃ困りますよね?)、原則的に回収自体必要ありませんが、カプセルがちゃんと体外に排泄されたことの確認は必要です。肉眼的に目視できなければ、腹部のレントゲンを撮って確認します。

 

カプセル内視鏡は、1981年にイスラエル国防相の軍事技術研究機関に勤める技術者が、「体内の消化管内をミニチュアのミサイルが画像を送信しながら通過していく」というアイディアを思いついて開発されたそうです(「カプセル内視鏡 飲むだけドットコム」より)。

なかなか興味深い開発経緯といえると思います。

 

検査としてラクそうだというイメージもあるので、外来を受診される方の中にも「検査はカプセル内視鏡でなんとかなりませんか…!?」という方が時々いらっしゃいます。

 

確かに、カプセル内視鏡のメリットとしては大腸カメラや注腸検査よりラクなことが挙げられます。 また、注腸検査やCTコロノグラフィーのような医療被曝もありません。(つづく)

 

(文・イラスト 近藤慎太郎)

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

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将来性の高い大腸がん検診は?

1.大腸カメラ

2.注腸検査

3.CTコロノグラフィー

4.カプセル内視鏡

 

上記の大腸がん検診のうち、個人的に将来性が高いと思うのは「3」のCTコロノグラフィーです。

CTコロノグラフィー(CTC)、大腸CT検査(大腸3D-CT検査)などと呼ばれます。

 

これはCT装置で体の断層画像を撮影し、コンピュータ上で画像を処理することによって、大腸だけを抜き出して立体画像にするという検査方法です。

 

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イメージとしては、前回解説した注腸検査を、テクノロジーによって進化させたようなものです。

  

 

非常に画期的ですし、横になってCT撮影するだけなので痛みや不快感などもありません(ただし腸の洗浄と、膨らませるための送気だけは必要です)。

また基本的にはCT検査なので、腸管の外にある病気まで検査することが可能です。

 

そしてなにより重要なのは「1」の大腸カメラや「2」の注腸検査のように、術者による技量の差が出ないということです。

あくまでCT検査なので、誰がやってもある程度の精度の検査が施行可能なのです。

これは非常に公平なことで、この検査の大きなメリットと言えるでしょう。

 

技量によって検査の結果に差が出るということは、ある意味医者の腕の見せ所ではあります。しかし本当に大切なことは、誰であっても、どんな場所に住んでいても、平均的に同じレベルの医療が受けられるということです。これは医療のもっとも理想的な姿だと思います。

 

(あえて細かいことを言えば、CT検査の結果を読影する医師の能力によって差が出るかもしれませんが、おそらく10年後にはAIが読影していて、その差も無視できるものになっているでしょう)

 

一方、CTコロノグラフィーのデメリットとしては、やはり医療被ばくがあることです。

特にCT検査なので、一般的なレントゲン撮影の数十倍~100倍程度の被ばく量があります。この点については、撮影方法を工夫することや被ばく量の少ない機器の開発をするなど今後の重要な課題と言えるでしょう。

 

また、病変を疑う場合は改めて大腸カメラが必要になることが挙げられます。そして比較的新しい検査方法なので検査可能な施設が限られています。

 

これは私見ですが、いくつかのデメリット、改善点はあるものの、本検査の有用性や将来性は非常に高く、大腸がんやポリープのチェックのために今後さらに重要な検査になっていくと思います。

 

(文・近藤慎太郎)

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

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実績だったら大腸カメラ。では注腸検査のメリットは…?

1.注腸検査とは?

 

1.大腸カメラ

2.注腸検査

3.CTコロノグラフィー

4.カプセル内視鏡

 

この中で、もっとも歴史がある検査は注腸検査です。

注腸検査とは一体どんな検査でしょうか?

 

かんたんに言うと、注腸検査は「大腸版のバリウム検査」です。

バリウム検査の場合は、バリウムと発泡剤を口から飲みましたが、注腸検査の場合は肛門からバリウムと空気を入れて大腸を観察します。

 

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検査台の上でゴロゴロ転がるのも同じです。腸の粘膜にバリウムをなじませて、ポリープがないかどうか調べます。

 

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注腸検査では、大腸カメラのような出血、穿孔といった合併症が起こる可能性はほとんどありません。

また、大腸カメラの場合は観察方向の関係でヒダの裏が死角になることがありましたが、注腸検査の場合はそういう問題が起こりません。

「じゃあ注腸検査の方が正確なんじゃないの?」

と思うかもしれませんが、死角がないという利点がある一方、腸の中に残っている便を間違ってポリープと誤認してしまうことがあります。

なかなかうまくいかないものですね。

 

また、以前に胃のバリウム検査の回で説明した通り、

台の上でひんぱんに体位を変換したりするのはそれなりに大変です。

  

 

その他のマイナス点としては、放射線を使用するので医療被ばくがあること、病変を疑う場合は改めて大腸カメラが必要になること(二度手間になる)が挙げられます。

 

 

2.注腸検査の将来は…?

 

注腸検査はまだまだ現役の検査方法ではありますが、大腸カメラや次回解説するCTコロノグラフィーの普及とともに、その果たす役割は徐々に少なくなっています。

 

バリウム検査や注腸検査は医師ではなくて放射線技師が試行できるので、医療資源(マンパワー)の適正配分、役割分担の観点からは歓迎すべき検査なのですが、検査数の減少により技能を継承する技師も減っています。

 

日本の医療を長年支えてきた検査方法であって、高度な技術や知見も蓄積しているだけに、このまま失われてしまうのだとしたら、非常に残念なことだと思います。

 

(文・イラスト 近藤慎太郎)

がんで助かる人、助からない人 専門医がどうしても伝えたかった「分かれ目」

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三省堂・西武池袋本店の講演会は、今週金曜日です〜!

みなさま、今週末のご予定はいかがでしょうか?

23日の三省堂西武池袋本店での講演会が迫ってまいりました!

 

*講演会の詳細は前述の三省堂書店池袋本店特設サイトよりご確認ください。

 

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給料日前に恐縮ですが、がんとがん検診について理解を深めるために、500円だけ投資してみませんか?

ご参加いただければ、本ブログと拙著『がんで助かる人、助からない人』のエッセンスを1時間強で効率的に吸収することができます。

また、なかなかブログ等ではオープンにできない、胃がん内視鏡治療の写真などもお見せしちゃいます!

さらに、講演後にはがんについての質問コーナーにも時間をたっぷりとりますので、「これが知りたい」という疑問がある方は、ドシドシご質問ください。

 

お席はまだ余裕があるみたいなので(^◇^;)、みなさまのご参加お待ちしております〜!

 

(参考までに先週16日に行った講演会の写真をアップいたします。

とある有名企業様のご依頼でしたが、100名近くお越しいただき、大盛況でした!)

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会長、社長、役員が集合してしまい、ちょっと緊張しています。

 

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一生懸命サインしております(笑)。

 

 (文・近藤慎太郎)

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大腸内視鏡(大腸カメラ)の実際

1.実績だったら…

 

大腸の主な画像検査として以下の4つの検査方法が挙げられます。

 

1.大腸カメラ

2.注腸検査

3.CTコロノグラフィー

4.カプセル内視鏡

 

この中で、実績があるのは1の大腸カメラ2の注腸検査です。ただし、正確性は大腸カメラに軍配が上がります。

 

そもそも大腸の問題に関しては、大腸カメラの結果が一番真実に近いという前提で議論されるのが通例です。

たとえば便潜血検査でポリープが20%しか指摘できなかったといった場合、それは大腸カメラで見つかった数字を100%として、ということなのです。

 

 

2.大腸カメラの実際

 

大腸カメラは、液体の下剤を1〜2リットル飲んで大腸をカラにした後に、胃カメラとよく似たカメラを肛門から入れて大腸を観察する検査です。

 

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大腸カメラのメリットは、正確性が高いということと、ポリープなどがあった場合に切除(治療)まで行えるという点です。

 

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ただし人間ドックの大腸カメラでポリープが見つかった場合に、そのまま切除までする医療機関と、後日改めて保険診療として切除をする医療機関があります。この点に関しては事前の確認が必要です。

 

そしてもしポリープを切除した場合には、時間が経ってから切除面から出血する危険性が出てきます。その危険性をできるだけ減らすために、数日〜1週間ほど飲酒や運動ができないなど制限がかかるので、検査の日程を組む際には注意が必要です。

 

大腸カメラのデメリットとしては、個人差はあるものの検査に伴う苦痛がありえることです。

カメラが腸の中に入っていくことによって、腸が引っ張られ、お腹の張る感じや痛みがでることがあるのです。特に子宮筋腫や帝王切開、腹部の大きな手術を行っている場合には、大腸とお腹の壁が癒着して、不快感が強くなりがちです。

 

こういったケースでは、鎮痛剤を使用することによって症状を軽減できますので、使用できるかどうかについても事前に医療機関に確認することをお勧めします。

 

また、きわめてまれではありますが、検査に難渋したり、ポリープの切除で深く切りすぎたりした場合に、大腸に穴があいてしまうことがあります(これを穿孔といいます)。

小さな穴であれば、クリップという金属製の洗濯バサミ(のようなもの)で穴を閉じることができますが、大きな穴であれば、開腹手術になってしまうこともあります。

 

大腸カメラは胃カメラ以上に術者の技量が検査内容を左右する検査です。

受ける際にはできるだけ事前にリサーチをして、評判のいい施設または医師を受診するようにお勧めいたします。

 

(イラスト・文 近藤慎太郎)

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