誤解による結末を回避するために

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1.極端な「がん関連本」の罪深さ

 がんに関する世の中の高い関心を反映するように、一般読者向けの本が多数出版されています。その内容は千差万別ですが、困ったことに、医療関係者からみるとその内容に「!?」と思うものが非常に多いのです。特に、「がんになってもこれをすれば絶対治る」とか、「がんになったら治療を受けないほうがいい」とか、「がん検診は必要ない」といった極端な論調の本が目立ちます。

 

こういった本の需要があるのは、やはり読むことによって安心感を得たいという心理によるものでしょう。「これをすれば治る」というのはもちろんですし、「治療を受けないほうがいい」というのも、治療を受けないという選択肢が諦念につながり、逆説的に人の心を軽くするのでしょう。

 

これらの本を読み物として割り切っている分には問題ありません。しかしこれが絶対的な真実なんだと誤解してしまうのであれば大問題です。

そして残念ながら、世の中にはそのように誤解してしまっている方がたくさんおり、信じきっているからこそなおさら熱心にその誤解を周囲に広め、がんやがん検診に対する正しい知識が世の中に広まる事を妨げてしまっています。

医療の現場で患者さんとがんについての話をすると、世の中にはがんに関する実に様々な、そしてとても根強い誤解が蔓延しているということを痛感します。

そして相手ががんであるだけに、ミスリードによって時間を空費している余裕はありません。

誤解によって生じる取り返しのつかない結末を回避すること。それは本ブログの重要な目的の一つです。

 

従来の本を愛読している方には異論があるかもしれません。それでも私がそう判断するのにはある理由があります。従来の本には、2つの共通の弱点があるのです。

  

2.がん関連本の弱点とは

1つ目の弱点は、「客観的なデータによる裏付けが不十分」ということです。かんたんに言ってしまえば、「なにを根拠にそんなことを言っているのか分からない」。

根拠のない一方的な私見を押しつけていたり、偏ったデータを主張に都合のいいようにツギハギしたりしたものがとにかく多いのです。

1人の医師が一生のうちに経験するがんの数にはどうしても限界があります。そのため、医師1人分のデータで普遍的な真実を導き出すことは非常に困難です。もちろん経験に裏打ちされた知識というのも大事なのですが、独りよがりな意見になる危険性には常に注意が必要です。

 

ではどうすれば客観的なデータになるのでしょうか?

最も基本的な方法は、「データを持ち寄って統合する」ということです。たとえば、1つの病院であっても複数の医師から集めたデータを統合して使う。さらには、できることなら複数の病院から集めたデータを統合して使う、ということです。そのほうが、それぞれの医師が知らず知らずのうちに抱えているクセや偏りといったものを均質化してくれて、データを客観的なものにしてくれるのです。また、統合して母数が多くなれば、偶然によるバラツキが混じりこむ可能性も低くなっていきます。

 

そしてデータを用いて議論する際には、「このデータはどの医学雑誌の何月号にどんなタイトルで載っている」といった出典を明らかにして、第三者が内容を検証しやすいようにするのが大原則だと思います。ただし、これをきちんとやっているがん関連本というのはほとんどありません。さながら言ったもの勝ちの無法地帯のようなものです。

  

3.さらに致命的なこと

 次に2つ目の弱点です。こちらの方が、より本質的かつ致命的でしょう。

がんについての本を目にするたびに私が非常に強く疑問に思うのは、「なぜすべてのがんを一括りにして考えるのか」ということです。(つづく)

文・イラスト 近藤慎太郎