1.胃はなんのためにあるのか
胃がんの患者数は、男性のがんの中で1位、女性で3位となっています。
また平成26年の胃がんの死亡数は男女合わせて約5万人(47903人)で、がんの中では肺がんに次いで2位になっています(がん情報サービス最新がん統計より)。
「治る」がんである胃がんが、がんの中で占める割合がいかに大きいかが良くわかります。そして正しいがん検診が広まれば、理論的には年間5万人のうちのほとんどの方を救えたはずなのです。冷静に考えると、これは本当にとんでもない話なのです。
さて、そもそも胃にはどんな役割があるのでしょうか?
1.胃は食道と十二指腸(小腸の一部)を結ぶ、袋のような臓器です。
食事の吸収を行うというイメージがあると思うのですが、それは実は主に小腸や大腸で行っており、胃はむしろ食事内容を一時的に溜めておく倉庫のような役割を持っています。
胃酸の分泌や蠕動運動によって食事内容をドロドロにし、小腸や大腸で吸収しやすい状態にしてから、少しずつ十二指腸へと送り出すのです。
2.胃酸には殺菌作用もあるので、食事に混ざった細菌を殺してくれます。
3.胃の粘膜から特殊な物質を分泌し、小腸での鉄やビタミンの吸収を助けるという役割もあります。
2.胃がなくなったらどうなるのか?
それでは、胃がんができて外科手術になった場合、どんな不都合が生じうるでしょうか?
手術後に胃の一部でも残ればいいですが、胃がんの大きさや場所によっては胃が全てなくなる全摘手術になってしまいます。そしてその場合には、前段で述べた胃の役割がすべて失われてしまうのです。つまり、
1.食事内容を溜められなくなるので、一度に食べられる量が減ってしまいます。「食事回数を増やして少量ずつ食べる」といった工夫が必要になります。
また、摂取したものが全ていきなり小腸に送り込まれることによって、冷や汗や動悸、嘔吐、腹痛、下痢などの症状が出ることがあります(ダンピング症候群といいます)。
2.胃酸の殺菌作用が失われるので食中毒になりやすくなります。
3.鉄やビタミンの吸収能力が落ちて貧血になります。
胃全摘後に何もしないでいると、必ず貧血になります。しかも半年~1年後に起きる鉄欠乏性貧血と、3年以上たった後に起きるビタミン欠乏性貧血の2種類があるのです。特に後者はビタミンの注射をしない限り絶対に改善しません。漫然と鉄剤だけを飲み続けていると重篤になることがあるので注意が必要です。
実は胃という臓器は全摘してもただちに生命の危機に直結するという訳ではなく、術後も比較的元気に過ごしている方が大勢います(みなさんの周りにもそういう方がいらっしゃるかもしれません)。
ただ上記のように特に食生活という人間のQOL(Quality of life;生活の質)に直結する問題が生じてしまいます。
やはり胃がんはとにかく早期発見し、一部分でも胃が残るような手術方法を選択できるようにするか、できることなら内視鏡治療で完治させたい病気なのです。
3.胃がんのリスクを上げるもの
では何をすると胃がんのリスクが高まってしまうのでしょうか?
IARC(国際がん研究機構)や国立がん研究センターによれば、「生活習慣」における明らかな原因として、
「野菜不足」、
「果物不足」、
「塩分の過剰摂取」、
そして
「タバコ」
が挙げられています。
特にタバコは胃がんのリスクを1.6倍に高めます。
「えっ、タバコは肺がんのリスク因子じゃないの?」と思った方も多いでしょう。
タバコは肺がんとの関係ばかりがクローズアップされており、そのせいであたかも肺がんだけに関係するという誤解が蔓延しています。
タバコが肺がんのリスク因子であることは間違いありませんが、実は胃がんのリスク因子でもあるのです。そして、それだけにとどまりません。
「肺がん」、「胃がん」の他に、
「口腔がん」、
「咽頭がん」、
「喉頭がん」、
「食道がん」、
「大腸がん」、
「膵臓がん」、
「肝臓がん」、
「腎臓がん」、
「膀胱など尿路系のがん」、
「子宮頚がん」、
「鼻腔・副鼻腔のがん」、
「卵巣がん」、
「骨髄性白血病」、
と、計15種類のがんのリスク因子でもあることが分かっています!
そしておそらく、15種類に関係するということは、現時点ではデータが不足しているだけであって、実際は「ほとんどすべてのがんに関係する」と考えたほうが正しいのかもしれません。
いずれにしても、タバコの怖さがよくわかると思います。
最近は禁煙をサポートする薬も出ていますので、喫煙されている方はぜひ禁煙にトライしてほしいと思います。
4.ヘリコバクター・ピロリ菌という最重要課題
さて、胃がんのリスクを減らすためには、上記のような生活習慣の是正も欠かせませんが、なんといっても一番影響力の強い因子は、「ヘリコバクター・ピロリ菌」です。(つづく)
(文・イラスト 近藤慎太郎)